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【 テーマ「かこ」について 】


「かこ」では、私が2008年9月に経験した交通事故について綴っています。


 私自身がこの貴重な経験を忘れてしまいたくないから。


 毎日毎日起こり続ける交通事故、そのひとつひとつ痛み・重みを

 少しでも多くの人に知ってもらいたいから。


 そしてこの経験を踏まえたうえで、

 毎日を楽しんでいる人がいるんだということを知ってもらいたいから。



主観とエゴのかたまりですが、お付き合いいただけたら幸いです。


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事故から数日経ったある日、

「やあ。今大丈夫かい?」と言って気さくなお兄さんが病室に入ってきた。


私はよく状況が読み込めないままだったけれど、

彼が説明をすることには、私のリハビリ担当の先生らしい。


常に「にこにこ」とも「にやにや」ともつかない笑顔と元気な声で話すその先生はSさんといった。



はじめてのリハビリは、まず足のいろんなところを触って、

ひたすらに「わかる?」と聞かれた。

手で触れられたり、先のとがったものだったり、

つねったり、なでてみたり。


不思議なもので、最初は「わからない」と言っていた右足も、

触られるのを見ていると、その感覚がわかる気がしてくる。


きっと、からだが覚えていたんだろう。


それから、少し動かさないとね、と言って

私の足を持って膝を曲げたり、足首や足の指を動かしたりした。



Sさんはとてもおもしろい人で、

私の足を持ったままいろんな話をしてくれる。


私はその時間が好きだった。



だんだんと、足に電気をかけるようになり、

「足に力を入れてごらん」と言われるようになった。



そして事故後2週間経って、はじめての車いす 体験。


その次の日からは、リハビリ室に通うようになった。


私が入院したその病院のリハビリ室は、それはもう底抜けに明るくて、楽しかった。


ヤスは私より先にリハビリ室に通うようになっていたので、私がリハビリ室に行くと

「あーっこれが噂のフユちゃんー?!」

と、既に私の存在は周知のものとなったいたようだ。


「彼女可愛いじゃーん!ヤっちゃんなんでこの子と付き合ってるのー?!」

なんて冗談を言われながら、私は足の、ヤスは腕と足のリハビリに通った。






車いすに乗れるようになった、と言っても、この頃はまだ自分での乗り降りはできなかった。


看護師さんかリハビリの先生を呼んで、

肩に抱きついて全体重をあずけ、乗せてもらう。


看護師さんも私を抱きかかえていて足元が見えないものだから、

時たま私の足を踏んでしまったり、車いすにひっかかりそうになったりすることもあった。


「フユちゃんごめーん!!足踏んでたね、痛かったでしょう!」


そう言われても、私には全くわからなかった。


足が曲がっていても気づかないし、踏まれていても痛みを感じなかったのだ。







リハビリ室に通って数日経った頃、ぽつりとこぼした。



「私、バカみたいなんですけどね。

歩けるような気がするんですよねぇ。」



実際に、事故から2~3週間が経っても、

夢に出てくる自分は変わらずに走ったりとび跳ねたりしていたし、

目が覚めて一瞬「なんでここにいるんだろう」と思うこともあった。


からだが、覚えている。


それはきっと、当然のことなのだろう。

21年間ずっとこのからだで生きてきたんだから。


「それは無理だよ」と笑われるかと思ったけれど、

Sさんが言った言葉は正反対だった。



「おお!いいねぇ、じゃあ立ってみようか!」



え?いいの?と戸惑う私に、Sさんが言った。




「人間はね、想像できることしかできないんだよ。


つまり、「立てる」ってイメージができてるなら、可能性があるってことだ!」




なるほど、それなら自信がある。

空を飛ぶのは想像がつかないし、今走れと言われたら無理な気がするけれど、

立つことなら、できる。


そう思えた。




平行棒という(テレビドラマのリハビリでよく出てくるもの)2本の長い棒の間に車いすで入って、

目の前でSさんがかがんだ。


「いいかい。俺の肩につかまるんだよ。


そして膝にぐっと力を入れてごらん。」



手はがっしりとSさんの肩をつかみ、汗だくになりながら、


全神経を足に集中させた。




いけ。





いけ。







からだが少し前方に傾き、


視界が、高くなる。







「立ったぁー!」



Sさんが大きな声で言った。


「クララが立ったよー!」


こんな時にも愉快なSさん。



リハビリ室にいた全員がこちらを向いて喜んでくれた。

ヤスもいる。


「フユちゃん!すごいねー!」

「おめでとう!」


ヤスの担当の先生や、ほかの先生も、リハビリ中の患者さんまで、

一緒になって喜んでくれた。



立てた。



思い描いたことは

実現できるんだ。



たくさんのあたたかい声、あたたかい空気のなかで、

そう、感じた。