9月22日、月曜日。

いつものようにベッドで横たわる私のもとへ、思わぬ来客が現れた。


初めて見た女性が1人、笑顔で私の部屋にやってきた。

「フユちゃん、今ちょっといーい?」

よくわからぬまま、はぁ、とあいまいな返事をすると、その客人がゆっくりと姿を見せた。


ヤスだ。


「え…?ヤス?!」


車イスに乗せられている彼は、その大きなからだがはみ出しそうなくらいだった。

1週間手入れのできなかったままの無精ひげと、曲げることのできない折れた右足。


「来ちゃった。」


という彼の顔は真っ青だった。

笑顔を見せたくてもその笑顔が固く、ひきつっている。

痛いのだろう。

痛みを抑えてきてくれたことがひしひしと伝わる。


感謝の気持ちと痛々しさへの苦しい気持ちで胸がいっぱいになる。

だけど、周りにはたくさんの人に見守られている。

こんなところで、泣けない。


「じゃあおばさんたちはちょっと退散しようかー。

ヤスくん、無理はしちゃだめよ。」


そう言い残して、女性2人が部屋から出て行った。

どうやら、リハビリの先生と担当の看護師さんらしい。



2人きりになって、彼は真っ青な顔のままゆっくりと話した。


「どうしても、来たくて。

 フユ、明後日手術だから。

 明日は祝日で、リハビリが休みだから、今日、連れてきてもらった。」


うん、そうだね。

そうだね。

ありがとう。


うまく言葉にならなくて、実際に自分で何と言ったのかは覚えていない。



やっと逢えた。

隣の隣の部屋にいても、顔を見ることも、声を聞くこともできなかった。

やっと、逢えた。


私はベッドに横たわり、彼はその横で車イスに座っている。

ほんの1メートル。

手を伸ばせば届く距離なのに、その、'手を伸ばす'ことができない。

お互いが、自分でこのたった1メートルの距離を縮めることができない。


胸がいっぱいだった。


喜びと、悲しさと。


そんな感情に浸る間もなく、リハビリの先生が戻ってきた。

「はーい、お邪魔して悪いけど、もうそろそろ限界だね。

 お部屋に戻りましょうか。」


ほんの数分の再会だった。

あとで聞いたことだけれど、事故後数日の彼の状態で車イスに乗る、というのは

相当に大変で、痛みを伴うものだったらしい。


ありがとう。

逢えて、よかった。