母がいなくなった家は
まだ母の気配で満ちていた。
施設に入ることが決まってから
この家をどうするかずっと考えていた。
置いておけばお金がかかるし
壊すにはあまりにも思い出が多すぎた。
結局、知人が住んでくれることになって
私は家を手放すことにした。
片付けをしていると、不思議と時間がゆるむ。
父が座っていた場所
母と買い物した日のこと。
ものに触れるたびに
記憶がやさしく戻ってきて
手が止まる。
四月になって
ようやく終わりが見えてきた頃
この家と本当に離れるのだと
体の奥で静かにわかった。
からっぽになった部屋は
思ったより明るくて
少しさびしかった。
ありがとう
さよなら
そして
これでいいのだと思った。
おちかれさまでした






