私はモニターをずっと見つめていた。

ずっとうつむいてる母。


先生「肺転移はもっと詳しい検査しなきゃなんですけどね」


私「…はい」


先生「食道がんの外科的治療は無理だと思います。抗がん剤や放射線療法かな。どちらにしてもうちの病院じゃ治療できないので、他の病院を紹介します」


私「…はい」


先生「どこの病院がいいですか?」


待って待って、急にそんなこと言われてもわからないよ…。


私「他の家族とも話し合いたいので後日連絡でもいいですか?」


先生「わかりました。あとですね、その病院に転院するまでの間、ご自宅に帰られると思うのですが…」


うつむいていた母が顔をあげた。


母「いえ、転院するまでこちらで入院させてもらえませんか。二人暮しで急に倒れられたら私どうしていいかわかりません」


私「お母さん、お姉ちゃんと話し合うけど私たち交代で家に帰ったりできるから…」


母「そんなのずっと一緒にいないじゃない!仕事だってあるじゃない!」


私「…」


先生「ご自宅に帰られた後、訪問治療を派遣しますよ。口から栄養取りづらいと思うので点滴になると思いますし、1日に何回か看護師が…」


母「イヤです、落ち着かない!」


癌とわかった父と一緒に暮らすというのが、70歳を超えた母には体力的にも精神的にもきついのだろう…


私も先生もただ、黙って母が落ち着くのを待った。

背中をさすっても、責めるような目で私を見てくる。


それでも、私は父を転院する前に家に帰してあげたかったんです。