ようやく呼ばれた。

今度は父と母で診察室に入ってもらい、私はそのまま待合室にいた。


15分ほど待っていた。

大丈夫、大丈夫、大丈夫に決まってる。

何度も何度も大丈夫と繰り返していた。


ドアが開いた。

母だけが出てきた。


母の顔を見た瞬間、あぁ…悪かったんだな…と。

涙目だったから。


母「お父さん、食道のところに腫瘍があるって」

私「…うん」

母「まずは良性か悪性か次検査入院するって」

私「…うん」


大丈夫、大丈夫、大丈夫。

大丈夫、大丈夫、大丈夫。


母「…私、怖くて。お父さん、今日からもう入院してもらえないか聞いてみたい」


母の申し出に頭も心も追いつかない。


私「え?今日はもう帰るんだよね?」


母「そうなんだけど…、でも家で倒れられたりしたら怖いのよ。

食事も今までできてたのが奇跡ですって言ってたし。だから今日から入院してもらった方が安心なの」


たしかにそうかもしれないけど、お父さんも持っていきたいものとか準備したいだろうし…。

まずはお父さんに聞かなきゃいけないことだし…。

お姉ちゃんもまだ何も…。


そうこう考えてるうちに、今後のスケジュールを持ってきた看護師さんがきた。

母は今日から入院できないかとお願いしていた。

「少々お待ちください」と看護師さんは確認しに行った。


しばらくして、看護師さんはたくさんの書類とともに

「ベッドに空きがあるので大丈夫だそうです。

検査入院に関係する書類の記入をお願いします」

と、あっという間に入院が決まってしまった。


看護師さんに説明受けながら書類にサインしていると、入院着に着替え、点滴スタンドをコロコロと押しながら父が来た。


「それではこれからお部屋にご案内します」


私「お父さん!」


父は振り向いた。


私「…検査頑張ってね」

言いたいことはたくさんあるはずなのに、これしか言えなかった…。


父はヒラヒラと手を振り、看護師さんが仕切りのカーテンをめくってくれて奥に入っていった。


父が歩いている姿を見るのはこれが最後でした。