「道祖神の前に人が集まっているから 、そこに行く」
デイサービスの送迎の車から降りると、親父はそんなことを言い出した。
居間に座り、お茶を飲んで、茶菓子を食べても、出かけようとする気持ちが薄まらない。いつもと違い、その日はなんとも収まらない。
仕方が無いので、車に乗せて近所を一周する。
「なぜ右に曲がるんだ」
「これじゃあ、ますます遠くなる。道が違う」
今日は、やけに真っ当に、指摘する。
それではと、車から降ろし歩かせる。
村には、何箇所か道祖神が祭られている。
その一番近いところに連れて行く。
「こことは、違う」
行きたい古い地名の呼び名を言い、「その先に畳屋、その先にはお堂がある」と付け加える。
間違いの無い、確かな記憶だ。
仕方がないので、また車に乗せその場所に連れて行く。
「こことも、違う」
「なんでそこが分らんのか」
と詰問される。
きっと、70~80年前の記憶の世界にいるのだろう。
充実した全盛時代の記憶なのか、色んな重荷を背負って苦労した記憶なのか。
脳に深く刻み込まれた、消えることの無い記憶なのだろう。
杉の生垣に囲まれた、石積みの苔むした道祖神は、今はもう見つけようがなかった。
疲れ果てて眠り込むと、その記憶もどこかに潜り込んでしまったようだ。
「長生きなんか、したくないなぁ~」
そんなため息に似たつぶやきが聞こえる。
デイサービスの送迎の車から降りると、親父はそんなことを言い出した。
居間に座り、お茶を飲んで、茶菓子を食べても、出かけようとする気持ちが薄まらない。いつもと違い、その日はなんとも収まらない。
仕方が無いので、車に乗せて近所を一周する。
「なぜ右に曲がるんだ」
「これじゃあ、ますます遠くなる。道が違う」
今日は、やけに真っ当に、指摘する。
それではと、車から降ろし歩かせる。
村には、何箇所か道祖神が祭られている。
その一番近いところに連れて行く。
「こことは、違う」
行きたい古い地名の呼び名を言い、「その先に畳屋、その先にはお堂がある」と付け加える。
間違いの無い、確かな記憶だ。
仕方がないので、また車に乗せその場所に連れて行く。
「こことも、違う」
「なんでそこが分らんのか」
と詰問される。
きっと、70~80年前の記憶の世界にいるのだろう。
充実した全盛時代の記憶なのか、色んな重荷を背負って苦労した記憶なのか。
脳に深く刻み込まれた、消えることの無い記憶なのだろう。
杉の生垣に囲まれた、石積みの苔むした道祖神は、今はもう見つけようがなかった。
疲れ果てて眠り込むと、その記憶もどこかに潜り込んでしまったようだ。
「長生きなんか、したくないなぁ~」
そんなため息に似たつぶやきが聞こえる。