ながいあいだ


海を見ていない


なのに息苦しい


海底にいるような気持ちになる


水面はきらきらしていて、見上げて手を伸ばせば届きそう


水面は、あまりにも、遠い


浮上すればするほど苦しくなって、また海底に戻る


陽のあたらない、つめたい場所でもわたしはここにいたいのだから仕方ない


「わたしはここだよ」


声はあぶくになって


地上に届くときには消えてしまうから


声も出さず なにも聞かず 


静かに水中で息をひそめている


あなたのことは もう忘れてしまった。


やがて夜になって


水面には星たちのまたたきと


ゆらゆらゆれる月


「いつまでそんなところにいるの?」


それは月だったのか、意地の悪い星の子たちだったのか


あのひとだったのか


声をあげて泣いてみる


無数の大小のあぶくがいっせいにわたしからあふれてくる


ぼこぼこぶくぶく


と すごい勢いでわたしの口から吐き出されたそれら


わたしのからだは


しゅるしゅると細くなっていく


思いはみんなあぶくになって


水面から空へ舞う


泣きつかれて


こころもからだもきおくもあぶくになって


わたしはただ途方に暮れたあとで


やすらかなきもちになった


そうしてわたしは


一本のほそいほそい糸のように


ほそいサカナになって


あなたにたどりつくまえに


大きな魚の口に吸い込まれて消えてしまった