風香の不思議本第十集

回想 ― 不思議な家とアイスクリームのケーキ

子どもの頃
私は竹馬の友と呼べるような
友だちに出会いました。

その子の名前はイチコちゃん。
はつこちゃんたちが住んでいた所から
南へ十メートルほどの場所に住んでいました。

私は毎日のようにイチコちゃんの家へ
遊びに行きました。
けれど、不思議なことに何度通っても
飽きることがありませんでした。
まるで探検をしているようで
行くたびに新しい発見がある家だったのです。

イチコちゃんのお父さんの姿はあまり 
見かけませんでしたが
お祖父ちゃんはよく見かけました。
お婆ちゃんはとても優しい人で
私のことまで孫のように
可愛がってくださいました。

その家の造りがまた
なんとも不思議でした。

それぞれの住まいには台所がなく
広い敷地の真ん中に食堂だけの建物が
建っているのです。

そして、その食堂を囲むように
五、六軒の家が並んでいました。

今思えば、お父さんのきょうだいたちが
皆そこで暮らしていたのでしょう。

広々とした敷地の奥には庭があり
鉄棒までありました。
さらに少し離れた場所には
長い建物が建っていました。

子どもの頃は何をする場所なのか
わかりませんでしたが大人になって考えてみると、どうやらホームこたつを作る工場のような場所だったのだと思います。

敷地の周りには木材が並べられ
乾かされていました。

そんなイチコちゃんの家で
私はたくさんの思い出を作りました。

特に忘れられないのは
真ん中にある食堂です。

そこは誰でも自由に出入り
できるような温かな場所でした。

ある日
お婆ちゃんが真っ赤に熟れたトマトを輪切りにして、お砂糖をたっぷりとかけて食べさせてくれました。

今では少し珍しく感じる食べ方ですが
あの頃の私にはごちそうでした。
口いっぱいに広がる甘酸っぱい味は
今でも懐かしく思い出されます。

お祖父ちゃんも印象深い人でした。

毎日のように川へ鰻の仕掛けを見に行き
帰ってくると捕れた鰻をさばいていました。
まるで鰻取りの名人のような人でした。

私はその様子を見るのが好きで
何度見ても飽きませんでした。

包丁さばきに見とれながら
「今日は何匹捕れたのだろう」
と興味津々で眺めていたものです。

そして、イチコちゃんの家で経験した中でも
最も驚いた出来事があります。

まだアイスクリームが今のように
身近ではなかった時代のことです。

ある日
「喫茶店へ一緒について来て」と頼まれ
私は喜んでついて行きました。

そこで受け取ったものを見て
私は思わず目を丸くしました。

それは、なんとアイスクリームで飾られた 
大きなデコレーションケーキだったのです。




真っ白なクリームのように見える 
冷たいアイスクリーム。

子どもだった私には夢のような食べ物でした。

「こんなケーキがあるんや……」

その驚きは今でも鮮やかに覚えています。

生まれて初めて目にした 
アイスクリームのデコレーションケーキ。

あの日の胸の高鳴りは
長い歳月が過ぎた今でも
私の心の中で冷たく甘い輝きを
放ち続けているのです。