風香の不思議本第八集

回想ー月見草の河原で

風香は

まわりに遊ぶ子がいない日は

タキちゃんの所へ行かず

一人で遊ぶことが多くなっていきました。



それほど

この新しい土地は面白かったのです。



堤防を下りると

河原いっぱいに月見草が咲いていました。


淡い黄色の花が風に揺れ…


夕方になると

どこか優しい匂いが辺りに漂います。


私は

その花の中をかき分けるように進み

夢中で川辺まで降りていきました。


川では

砂利の採掘が行われていました。


川の真ん中で

大きな機械がぐるぐると音を立てながら回り

砂利を積んだ船がいっぱいになると

また別の船と入れ替わっていくのです。


その様子が珍しくて

私は飽きもせず見つめていました。 


気がつけば

時間が過ぎるのも忘れているほどでした。



川の縁には

今のようなテトラポッドなどありません。


四角いセメントの塊を幾つも重ねただけの

どこか無骨な護岸でした。


水が引くと

その土のところまで歩いて行けました。


けれど

川の水は思っている以上に

早く増えてくることも

私は少しずつ覚えていったのです。


さっきまで歩いていた場所が

あっという間に水の下になる。


子ども心にも

川には生き物のような怖さが

あるのだと感じていました。


やがて水の引いた砂地で

シジミが採れることを知りました。


それからの私は

すっかりシジミ採りに夢中になりました。


毎日


「今日は何時に水が引くよ」


と教えてもらうと


小さな入れ物とシジミ採りの

スコップを持って川へ向かいます。


堤防ではツクシを摘み。


河原ではシジミを掘る。




風香にとっては


忙しくて。


楽しくて。


たまらない毎日でした。


いつの間にか

友達のことも

幼稚園に行けないことも

忘れていました。


朝から晩まで外で遊び

お腹が空けば家へ帰る。


そんな毎日が

私には何より幸せだったのです。


昼ご飯は

たいてい決まっていました。


ご飯と木綿豆腐に鰹節をのせ

生姜をすりおろして醤油をかけたものです。


「ん〜、またこれか」


幼い私は、そう思いながらも

早く食べ終えて外へ飛び出したくて

仕方がありませんでした。


引っ越して来てからの暮らしは

自然でいっぱいでした。


見たことのないものばかりで

毎日が小さな冒険だったのです。