辺見氏に差し上げた歌集に載る拙歌は次のもの。

    辺見庸氏
 桃源郷へかそかひらくる穴のごとほの明かりする論断を読む

 一首では分かりにくいが、この前の歌は

 「桃花源」朗読テスト百(もも)たびの〈髣髴として光あるがごとし〉

  漢文「桃花源の記」を次々と100人の生徒に読ませている場面。下句の〈〉内は、桃源郷に通じる穴があって、そこからぼんやりではあるがかそかな光りが射しているようだ、というもの。

  「辺見庸氏」と詞書きのある歌は、2首目の下句を引き取ってうたっている。

 しかし、十数年前に作ったこの歌のような、かすかな希望すら今は感じられない時代になったのが、何とも口惜しい。