一般に、アトピーの赤ちゃんでは、乳児期早期から湿疹がみられますが、湿疹は、頭部、顔面から始まり、次第に下降してきます。湿疹のピークは離乳食開始期に相当する5~6ヶ月の間にみられることが多く、その時期を過ぎると、少し改善傾向がみられ、顔面の湿疹は1才頃に殆ど消退してしまいます。

 検査では、卵白に対する抗体(特異的IgE抗体)は、4ヶ月で既に陽性になっている場合が多く60%を越えています。一般に、湿疹のピークと特異的IgE抗体のピークは一致することが多く、症状の経過をみる上で5~6ヶ月頃のアレルギー検査は参考になります。

 以上より、最近は、次の①.~④.が、乳児アトピー性皮膚炎の特徴としてあげられるようになりました。
①.湿疹は顔に限局せず、体、手足に及ぶことが多い。
②.皮膚症状は、ジュクジュクするだけでなく、全身の乾燥肌、苔セン化(皮膚がガサガサして厚くなっている状態)、耳切れ、などがよくみられる。(耳切れはよくみられますが、耳切れがあるからアトピーというわけではないです。)
③.卵白などの食物抗原に対する特異的IgE抗体が陽性に出現しやすく、家族にもアトピー素因がみられることが多い。
④.湿疹は消長を繰り返すが、1才半~2才頃に軽快~治癒することが多い。

 なぜ、このような湿疹が出るのか、今のところ、はっきりとした原因は分かっていませんが、乳児期の乾燥肌、免疫バランスの不均衡、環境(衣・食・住)の変化、遺伝的要因、等々いくつもの原因が複雑に絡んでいるものと考えられています。

 アトピーを心配して受診される赤ちゃんの月令は、1~2ヶ月くらいが多いようです。今までお話ししたようにこの月令では、確定診断が困難な場合も多く、少し経過をみなければなりませんが、離乳食開始期にあたる5~6ヶ月くらいになると診断ができそうです。


 乳児アトピー性皮膚炎の自然歴と、免疫バランスの不均衡

 人間の免疫には2種類あり、それぞれ、Th1とTh2と呼ばれます。主に、Th1は、ばい菌をやっつける働きがあり、Th2は、アレルギーに関係します。本来、Th1とTh2とは、バランスを取り合ってちょうど良い状態にあるはずですが、Th2がTh1より強くなるとアレルギー疾患が発症しやすくなります。

 妊娠中の母胎では、Th2がTh1より強いのですが(このため、妊娠中に喘息やアレルギー性鼻炎が悪化することがあります。)、通常は、出生とともにTh2が弱まります。ところが、乳児期にアトピーを疑われる赤ちゃんの殆どは、Th2が強い状態のままと考えられており、アレルギーを起こしやすくなっています。
 
 しかし、1才半~2才くらいまでには、自然にTh2が弱まり、Th1とTh2とのバランスがよくなりますので、乳児アトピーはこの頃に軽快するものと考えられています。つまり、乳児アトピー性皮膚炎は難治性の成人アトピー性皮膚炎とは根本的に違うのです。


 アトピーとアレルギーとの違いは?

 アトピーとは<変わった>とか<不思議な>というような意味です。アトピー体質とは、一言で言えば、普通の人では何でもないような刺激に対して、敏感であったり、いろいろな変わった反応が、起こる体質といえます。例えば、化繊の下着を着たとたんにかゆくなったりするような過敏な肌であったり、タバコの煙や冷たい空気で喘息発作がおきるような場合がそうです。 

 これに対し、アレルギーは、食物、ダニ、花粉など特定のものに対して、免疫が過剰に働き、いろいろな体内反応が引き起こされることを言います。

 両者を比較しますと、アレルギーは免疫の異常反応ですが、アトピー体質は免疫の異常だけでは説明のできない反応をも、含んでいるといえます。

 下図のように、アトピーは、アレルギーとアレルギー以外の反応の両者を合わせ持っていると思えばよいでしょう。



 アトピー性皮膚炎と食物アレルギーとは別のもの。 特異的IgE抗体の意味すること

 「食物アレルギー」でも述べたように、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーは、関係が深いものの、それぞれ別の疾患と考えた方がよいと思います。

 乳児アトピーでは、食物の関与が重視される傾向がありますが、食物アレルギーがアトピー性皮膚炎の直接原因かどうかは、今のところよくわかっていません。むしろ、アトピー性皮膚炎と食物アレルギーとは別の疾患と考える意見の方が大勢を占めています。

 ただし、アトピー性皮膚炎の人が食物アレルギーを合併することは珍しくなく、食物アレルギーによってアトピー性皮膚炎が増悪することはよく見られます。その場合、【食物アレルギーの関与するアトピー性皮膚炎】という表現をします。

 下図のように、アトピーだけの人、食物アレルギーだけの人、アトピーと食物アレルギーの両方を持つ人がいると考えるとよいでしょう。


 よく血液検査で(RAST法とかCAP法と呼ばれるもの)卵が陽性とか、ミルクが陽性とか言われますが、これは、アトピーの検査ではなく、食物アレルギーの検査です。
 
 食物アレルギーでよく見られる症状はじんましんです。ある食物に対する抗体(特異的IgE抗体)が、陽性にでた場合、その食物に対してアレルギーを起こす可能性がありますが、食物の種類、検査値の程度、年令などによってその判断は変わります。検査値が高値であったり(一般にRASTスコア3以上は要注意)、実際に特定の食物で湿疹が悪化するような場合は、かなり信頼性があります。

 さらに、重要なことは、IgE抗体が陽性ということは、抗体を作りやすい体質、簡単にいうとアレルギーを起こしやすい体質を持っているということです。これは今は検出されなくても、将来、ダニやHD、花粉、などの抗体も作りやすいということです。(気管支喘息やアレルギー性鼻炎をおこす可能性を持っているということ。)ですから、食物抗原に対する抗体が陽性なら、食事にばかり気をつけるだけでなく、住居(ダニ、カビ、ほこり、等)や大気汚染(タバコの煙、車の排ガス、等)にも気を配っていく必要があります。


 乳児のアトピー性皮膚炎で悩まないように(よくあるパターンを参考に)
 生後1~2ヶ月頃に湿疹がみられるようになりますと、まず、小児科を受診(1件目)することが多いと思います。最初、乳児湿疹と診断され、非ステロイド系外用剤(アンダーム、ベシカムなど)が処方されることが多いと思います。ところが、塗れば塗るほど湿疹がひどくなります。

 これは大変と他院(2件目)を受診しますが、今度はアトピーと診断され、ステロイド外用剤が処方されます。今度はあっという間に湿疹はよくなりました。でも塗るのを止めると、また湿疹が出ます。また塗るとよくなるのですが、止めるとまた湿疹が出ます。よく見るとこの薬はステロイド!。ずーと使ってもよいのか不安になってきます。

 そこで、また、他院(3件目)を受診します。アトピーはアレルギー(?)というもっともらしい説明をうけ、アレルギー検査で採血され、その結果がどうあれ、アレルギーの薬(ザジテン、インタール)を処方され、卵はダメ、母乳は中止し、ミルクはアレルギー用ミルクへ変更され、だからといってステロイドを止めるわけにもいかず、湿疹は一進一退を繰り返します。

 子育て雑誌やインターネットには、百花繚乱のごとくアトピーの話題が満載されています。何が正しいのか、どこの病院へ行ったらよいのか、これでは悩むなという方が無理というもの。

 乳児のアトピーは、成人のアトピーのように難治性ということは少なく、殆どは免疫のバランスがよくなる1才半~2才頃に軽快~治癒します。それまでは湿疹の消長を繰り返しますが、特別な治療法はなく、スキンケア、薬物療法(ステロイド外用剤、抗アレルギー剤、等)、環境整備、が基本治療です。

 何でもやればよいというわけではなく、また、何もしなくてもよいということではありません。そのお子さんにあった治療法が大切です。

 学童~思春期~成人では、長期間治療が必要なこともありますが、学童以後のアトピー性皮膚炎は、乳児のアトピー性皮膚炎と少し別な見方をした方がよいと思います。

 普段の診療で気がついたことを“~乳児のアトピー対策~”としてまとめてみました。乳児のアトピー性皮膚炎で悩まないように、参考にして下さい。


 ~乳児のアトピー対策~
★☆★ アトピー性皮膚炎治療の3大原則
・スキンケア→①. ・薬物療法→②.③. ・環境整備→④.⑤.⑥.

①.スキンケアは、保湿剤を十分に塗りましょう。
□ スキンケアとは“皮膚を清潔にして、外部の刺激から保護し、皮膚内に十分な水分を保つ事”です。そのためには、保湿剤は1日3~4回塗りましょう。
□ 1日に何回も塗るのが大変な時は、朝、昼は塗りやすいローションで、夜はたっぷり軟膏を→入浴後は効果抜群、入浴後10分以内に塗りましょう。
□ 皮膚の状態によっては、保湿剤でも皮膚に刺激を与えます。そのときの皮膚にあった保湿剤を選択しましょう。
□ 食事で口の回りが汚れやすい時は、食事の前にも保湿剤を塗りましょう。
□ 少し良くなったからといってすぐ止めず、毎日続けることが大事です。

②.ジュクジュクして、かゆい時は、ステロイド外用剤を
□ ジュクジュクして、かゆい時、つまり、炎症の強い時は、ステロイド外用剤を医師の指示通りに塗りましょう。
□ ステロイド使用初めは、正しい使い方を理解するために、必ず決められた受診日に受診しましょう。
□ ステロイドに期待すること:ジュクジュクせず、かゆみがある程度おさまること。そのためにはメリハリのある使い方が大切です。
□ 皮膚の状態で塗り方も変わります。指示通りに塗っても改善しないときは早めに受診しましょう。
□ 非ステロイド系外用剤(アンダーム、ベシカム、スタデルム、コンベック等)は、敏感な肌ではかぶれやすいので、アトピーで使うことは殆どありません。

③.必要な薬はきちんと内服しましょう。
□ ザジテンは、“症状(かゆみ)を軽くする薬”、“アレルギーを予防する薬”です。直接、アトピーを治す薬ではありません。
□ 2~4週間内服して、症状の改善があれば効果がありますので、続ける価値はあると思います。
□ インタールは、“食物アレルギーで悪化するアトピー性皮膚炎”には有効ですが、食物アレルギーを治す薬ではありません。

④.衣:下着は、肌に優しい木綿 を。
□ 自動洗濯機は濯ぎの時間を長めにしましょう。(漂白剤は使わないように、洗剤は少なめに、残留洗剤に注意)。
□ 体温が上がるとかゆみが強くなります。お風呂の温度はぬるめにして、冬は、脱衣所を暖めるようにしましょう。
□ 低刺激性石鹸は乾燥肌にはよいが、洗浄力が弱いため脂漏性湿疹には不向き。

⑤.食:あまり神経質にならないように。
□ 除去食は、はっきりとした根拠のある場合だけにしましょう。
□ アレルギー用ミルクが必要な場合は、原則的にミルクアレルギーの時だけ。
□ 動物性蛋白質は症状をみながら、ゆっくり始めましょう。
□ 乳児期から和食を心がけましょう。焼く、炒めるよりは、煮る、蒸す。

⑥.住:ダニ・ホコリ対策が大切。
□ 敷き布団、掛け布団にも掃除機をかけましょう(布団専用ノズルが便利)。
□ 長くしまっておいた布団には、必ず、掃除機や布団乾燥機を使用しましょう。
□ とれる絨毯は、なるべくとりましょう。
□ 毛のあるペット(イヌ、ネコ)は、なるべく避けましょう。
□ 冷暖房は外気との温度差を少なく、エアコンのフィルター掃除を忘れずに。

⑦.医師を上手に活用しましょう。
□ 受診日に聞きたいことは、前もってメモしていきましょう。
□ 何でも疑問なことは、遠慮なく尋ねましょう。
□ 受診日は守りましょう。
□ 患者さんが言いたいことが言えて、気分が安らぐ診療がベストです。

⑧.悪質なアトピー・ビジネスに注意。
□ 広告を鵜呑みにしないこと、体験談は作り話が多い。
□ 高価なものには要注意(薬と化粧品は高くないと売れないらしい...?)。
□ まず、医師と相談するようにしましょう。

⑨.治療目標を定める。
□ 多少の赤み、かさつきはあまり気にしないようにしましょう。
□ よく眠れて、日常生活に支障がなければ、大丈夫。と考えましょう。
□ 乳児アトピーの自然歴を理解しましょう。


 ~治療の継続が大切です~
 アトピーの薬物治療は、ステロイド外用剤や保湿剤を塗ることです。一見、簡単なように見えますが、けっこうコツがいります。

 ステロイドを塗るとよくなるけど、止めると、また湿疹が出て悪化してしまう。また塗るとよくなるが、止めると悪化する・・・。この繰り返しが多いため、使いすぎるのではないかと心配になる方も多いと思います。

 正しく使えばステロイドは安全といっても、患者さんが判断するのは、難しいのではないでしょうか。
 医師からは、“よくなったらステロイドは止めましょう”といわれても、現実には(すぐ、再発するじゃないか!!)ということになります。“よくなったら止めましょう”という言葉は“母を悩ませる悪い言葉”かもしれません。

 アトピーの皮膚をよ~く見ると、いつも同じではないですよね。ジュクジュクした赤みの強い湿疹と乾燥してガサガサした黒っぽい湿疹では、使うステロイド外用剤や保湿剤も当然異なってきます。

 ステロイド外用剤や保湿剤を上手に使うには、その時々の皮膚の状態にあったものを選択することが大切です。いつも同じ薬ではないのです。
 そのためには自分一人で悩まないで受診して下さい。継続的に受診される方はだんだんコツをつかんできます。
 
 アトピー治療を考える上で、大事なことは、治療目標を定めることです。ある程度かゆみがおさまり、日常生活に支障がなければ、多少の赤みや、かさつきは、あまり気にしなくてもよいです。

 赤ちゃんの頃は心配なことも多いでしょうが、<あと1年もすればよくなるんだ>と考えて、あまり神経質にならないことが大事です。乳児のアトピーは治りやすいと言われています。それは、心身の成長とともに、免疫力が増強し(ステロイドホルモンは体内でも作られているのです)、皮膚も丈夫になり、自然治癒力が高まっていくからです。すぐ治らないからといってあせらないこと。親のストレスは赤ちゃんのストレスとなり、かえって治りにくくしてしまいます。のんびりと構えることが大事です。

 アトピーの情報は氾濫しています。悪質なアトピービジネスなどに惑わされないように医師を上手に活用して下さい。診察時には、何でも相談して下さい。<患者さんが言いたいことが言えて、気分が安らぐ診療>が理想と思っております。忙しい外来では十分に御説明ができないこともあるため、このページを作成しました。アトピー治療の一助となれば幸いです。


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