→寝苦しい夜に涼しい話(1)
子供の頃、夏に親戚が病で亡くなった時のことを今でも覚えています。
通夜の晩、祭壇を置いた部屋の中に1匹の蝉が飛んできて、壁に止まりました。捕まえようとした私に、ひとりの大人が私にこう言います。
「あれは亡くなった○○さんの魂だよ。きっと自分の通夜を見に来たんだ。だからそっとしておいてあげなさい。」
さらっと聞き流してしまうくらいよくある話ですが、考えてみれば不思議な話です。輪廻転生するためには本来もっと日数が掛かるはずですが、通夜の晩には転生しているということが肯定されてしまっています。宗教というか田舎の習俗が、時にそんな教えを生んでしまうのかも知れません。
皆さんは幽霊を信じますか?
日本人には、神や宗教を信じる人が少ない一方で、天罰があると考える人は意外に多いそうです。また他方、以下のネット調査によれば、4人に1人は幽霊を見たことがあるそうです。
参考:ガジェット通信(2011.02.16)「あなたは幽霊を見たことはありますか? 大規模3000人アンケート」
ひょっとすると、説明不可能なオカルトに遭遇した人は意外と少なくないのかも知れません。普段は学問の権威として、オカルトなど絶対に信じない大先生でも、幽霊を見たという場合もあります。今回はそんな話です。
【燃える隣家とドーン!】
大学2年の冬。当時私は、近隣では破格待遇の木造アパートに住んでいました。築年数は古いのですが、風呂トイレ別の1K。しかもオーナーがガス屋兼風呂屋でしたから、ガスコンロもガス暖房も備え付け。エアコン・家具付きで、共益費込み42,000円。近隣より3割は安い物件です。
ある寒い日の深夜3時。普段は自炊でしたが、後期末試験の直前ということもあって、勉強を優先しコンビニ弁当に我慢する日が続いていました。その日も、アパートを出て道路向かいのコンビニへ夜食を買いに出ると、隣の一戸建て住居の庭から炎が上がっているのが見えました。正確には、高いブロック塀の向こう側でメラメラと。
・・・こんな時間に庭先で火を・・・?
そんなことしませんよね普通。ましてや空気が乾燥する冬の事ですから、間違いがあったら大変です。すっごく腑に落ちない心境でしたが、隣家にどんな人が住んでいるのかも全く知りませんでしたので、とりあえずコンビニへ。戻ってくると、火はもう消えていました。
しかしおかしいのは、同時にその家の明かりも全て消えているんです。室内どころか、玄関の外灯すら。
よくよく考えてみれば、ここへ住んで1年、隣家の人には一度も会ったことがありません。空き家なのかなと思っていたくらいです。庭先でゴミか何かを燃やした数分後、電気を消灯してすぐさま寝てしまうというのも変です。まさか火の玉?と一瞬胸躍ったのですが、放火だったとすればこんな木造アパートはひとたまりもありません。とりあえず、110番じゃない方法で警察に電話しました。
警察官は間も無くやって来ました。事情を伝えると家からは出ないよう言われ、警察官に隣家を調べてもらうことになりました。しかし、チャイムを鳴らしても一切反応は無かったとのこと。庭先を調べると、燃えカスはありませんでしたが、地面に焦げたような跡があったそうです。ただしその位置関係は建物と離れていたので、放火未遂でも無さそう。警察官からは、「巡回を増やしますが、次にまたあったら躊躇せず110番してください」と言われましたが、原因はよくわかりませんでした。
それから1カ月が経ち、珍しく夕方まで続いた雪が20cmも積もった深夜2時頃の事です。
夜中に唐突に、外から、
ドオオオオオオン!
という轟音。まるで、その壁に向こう側から大男が体当たりしたかのような爆音です。車の衝突音と言っても大袈裟ではありません。
アパートの端の部屋だったので、壁の向こうは何もありません。しかし、前回の放火疑惑以来、少し不安定な精神状態だったのだと思います。その夜は、外へ出て確かめるだけの勇気が出ませんでした。結局、一晩中眠れず、夜が明けてから外を確かめましたが、何もありません。平らに積もった雪の上には、足跡はおろか何ひとつおかしなところはありません。
それからしばらくの間、大学を休みがちになり睡眠薬が欠かせなくなりました。
【怪異はうちだけじゃなかった】
この出来事は今考えても非常に不思議です。「どこかから連れ帰っちゃったんじゃ?」と友達はからかいましたが、自分の中では未だに論理的な説明が付かず、ひょっとすると本当にオカルトだったのかも知れません。
出来事からしばらくの後、大学の恩師と夜中まで研究に没頭したある日、先生が車で送ってくれることになりました。ついでだということで、アパート近くの定食屋で食事していくことになったのですが、そこで先生が思いもかけずこんな話を始めました。
「お前さぁ、ずっとあそこに住んでるのか?」
そうですが、何か問題ですか?
「いや、こんなこと言うと嫌かも知れないけど、住んでておかしなこととか起こらないのか?」
え!?な、何で知ってるんですか・・・?
「やっぱりか。折笠先生って知ってるだろ?あの先生は憲法学の権威で、俺も尊敬している先生のひとりなんだ。彼は神も仏も絶対に信じない人なんだけど、ある時に不思議なことを言ってた。『戸吹山はお化けが出る』って。」
それって思いっきりうちじゃないですか!ひょっとして、昔の学生にそういう経験をした人がいるとか、そういう話ですか?
「いや、それが本人の体験談らしいんだ。折笠先生は奥さんが長らくヨーロッパに留学しててな、都内に自宅はあるそうなんだけど、自分ひとりで住む家にわざわざ帰るのも面倒だって言って、お前の家の近くの空き家を借りたことがあったんだよ。確か、心臓を患った後だったな。で、夜中寝ていると、家の中から話し声が聞こえてくるらしい。大勢の鎧武者が顔を揃えて、夜な夜な密議みたいなことを始める。やがてそれが終わると、今度は酒盛りが始まって明け方まで続くんだが、それが煩くて眠れないって言ってた。」
鎧武者・・・ですか。しかしそれ以前に、煩くて眠れないっていう反応が突っ込み所ですね・・・。
「うん、おれもそう言った。でも、突っ込んでも真剣な顔で話を続けるんだよ。こんなやつが出たとか、あんなことがあったって。どうやらその霊感みたいなものは、先生が心臓で倒れてから身に付いた能力らしいんだな。先生曰く『私は自分が一度死んだと思っていて、今は余生を生きているだけだから、もう怖いものはない』んだと。肝が据わってるっていうか、不思議な感性を持った人だよ。」
それでも折笠先生は住み続けてたんですか?
「ああ。奥さんが帰国するまで2年くらいかな。俺も一度招かれたけど、遠慮したw お前もあそこに住むなら、少し気を付けた方が良いかもな?w」
ておいおい。教え子を怖がらせてどうすんだよ先生・・・。
【古戦場の上に住んでいた】
翌日。当時は文系の学生でしたから、この周辺の歴史を少し調べてみることにしました。学内と市の図書館を1日歩いてわかったことは、アパート周辺が古戦場跡だったことです。
アパートの近隣には歴史上、古い順から高月城、滝山城、八王子城の3つの城がありました。そのうちの滝山上と八王子城は、実際に大きな合戦の舞台となっています。
特に滝山城跡はアパートから程近く、永禄12年(1569年)には武田信玄軍20,000と、別働隊の小山田信茂隊1,000に挟撃され、落城寸前までいく死闘を繰り広げています。地理的に見ても、恐らくはアパート周辺で多くの血が流されたことが予想されます。
参考:Wikipedia記事「滝山城」
さらに北条氏の八王子城は、小田原征伐の一環として天正18年(1590年)に、豊臣方の上杉・前田・真田ら15,000の兵に攻め込まれました。落城の際、立て籠っていた婦女子達は「御主殿の滝」に身を投げ、その水は三日三晩もの間、血の色に染まったという言い伝えがあります。
参考:Wikipedia記事「八王子城」
少なくともこの話から推察するに、折笠先生の見た鎧武者の幽霊達という話は辻褄が合うように思えてきます。またさらに別の話として最近、近所にあった大学職員寮でも、当時は幽霊の噂が絶えなかったという話を聞きました。
あ、そう言えば、私のアパートも大学学生課からの紹介斡旋でした。これではさすがに、学生時代には教えてくれなかったわけです。
う~む。確かに辻褄は合うような気もするけど、TVみたいな演出も再現VTRも無いので、イマイチイメージも湧かないし、腑に落ちません。と言うかそもそも、この国はかつて戦国の時代を経たわけだから、そんなことを言ってしまえば日本各地で幽霊騒動が起こってなきゃおかしい気もします・・・。
一方では、戸吹山は断層だという話もあるので、地下の断層で生じた電磁波や磁場が環境に影響して幽霊を錯覚させるというような仮説も成り立ってしまいそう。物理学の先生でも呼んでもっと調べてみたかったですが、文系学生の力ではちょっと難しかったですね。
ところで最後に余談ですが、卒業後に引っ越した社宅は、オカルト現象こそありませんでしたが、住んだ5年の間に3回も空き巣に入られました。警察によれば外国人連続窃盗団の仕業だそう。現金を置かなかったので大した被害こそありませんが、雨の日に土足で歩き回られるわ、指紋採取のアルミ箔で部屋中が銀色ラメだらけになるわ、三角に割られた窓ガラスから風雨は吹き込むわで、散々でした。しかも最後の一回は、当時付き合っていた今の妻が在宅中でした。連れてきた犬が吠えたので未遂に終わりましたが・・・。
幽霊も怖いけど、泥棒はもっと怖い。住めば都とは言いますが、果たして、、、複雑です。
さて、しょーもないオチでしたが、今回も最後まで読んで下さりありがとうございました。あ、次回も続きます。
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