5分で分かる逆襲のシャア社会学 | この国のタブー

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 続編ですので、前回の投稿はこちらをご覧ください。
 →5分でわかるガンダム社会学
 →5分でわかるZガンダム社会学



「あぁ、まるチャンまたやってしまったな・・・」
と残念がる声が聞こえてきそうですが、そうした読者意見は完全無視し、性懲りも無くまたまたガンダムの続編です。申し訳ありません。

「この国のタブー」というブログタイトルを見てページを閲覧された方には一層申し訳ないのですが、、、しばらく過去記事でもご堪能いただければ幸いです。いずれ必ず本線復帰することを誓いつつ、今回もどうぞ最後までお付き合い下さい。




【グリプス戦役以後の世界】

 群雄割拠、混迷を極めたこの戦いで、地球連邦軍の独立精鋭部隊は壊滅。連邦軍からの離反部隊によって組織された反政府軍もまた、戦力の大半を失い疲弊しきっていた。この両者の間隙を突く形で、一時は三つ巴の戦いを演じたジオン残存部隊が勢力を増していった。

 ジオン残存部隊はやがて自らを「ネオ・ジオン」と名乗り、ザビ家唯一の生き残りで当時まだ幼女だった末妹「ミネバ・ザビ」を傀儡的君主に祀り上げて、地球周辺の覇権を狙った。「第一次ネオ・ジオン抗争」が発生する。しかしこの戦いは長くは続かず、徐々に戦力を取り戻した反政府軍によって数か月後に全面敗北する。

 この時期、反政府軍から消息を絶った赤い彗星の動向については、全くわかっていない。もちろん、自ら復讐劇を演じたザビ家末裔や、それをさらに利用しようとするこの勢力に加担することも無かった。その行方はようとして知れなかった。



【新生ネオ・ジオン誕生】

 第一次ネオ・ジオン抗争終結から3年が経過した頃、赤い彗星のシャアが再び姿び姿を現す。復帰した彼のイメージは、それまでとは全く異なるものだった。

 彼は父ジオンと赤い彗星の名を利用し、散り散りになっていたジオン残党勢力を集結。自ら総帥の名乗りを上げ、新生「ネオ・ジオン」を組織する。
 かつて宇宙移民に希望を与えたジオニズム思想を前面へと押し出し、その実現を武力を持って完遂する。これによって争いを無くし、真の平和を実現すると説く。彼はジオン公国独立建国時の理念を掲げ、父譲りのカリスマ性によって人々を導いていく。かつての本流を貫く彼の姿はまさしくヒーローであり、くすぶり続けていた人々の意思を結集して再び勢力を増していく。「第二次ネオ・ジオン抗争」の勃発である。



【ジオニズム原理主義という宗教】

 シャアはまず、地球連邦政府首都に小惑星(巨大隕石)を落下させるが、それは序章に過ぎなかった。
 彼の真の目的は、かつてのような宇宙移民達の意思表明といった生易しいものでは無い。複数の隕石落下により最終的には地球を氷河期へと至らしめることで、人類の居住を不可能にするとともに、地球環境を自然の手に委ねて保全すること。すなわち、正しく父ジオン・ダイクンが掲げた思想の実現そのものであった。シャアは、自分のカリスマ性をあえて彼自身が利用することによって、人々を扇動し、その実現を図ったのである。

 さらにシャアは、政治家としての手腕も発揮する。全面戦争を謳う側らでは、連邦政府穏健派と密約を結ぶ振りをして、次に落下させる小惑星をも手に入れる。時には理想主義を掲げ、時には計略を尽くしながらも、彼の理想はその実現へと着実に歩みを進めていく。



【ニュータイプの宿命】

 しかしこの時も、シャアは内心では揺れていた。革命を成し遂げるためと言いながらも、その理想の裏では汚い仕事にも手を染める。ニュータイプによる人の進化を願う一方では、戦いの手段としての「強化人間」を量産する。他人の愛を求めては、夜な夜なララァの夢に取り憑かれてしまう現実。
 自分は本当は何がしたいのか。わからないまま時が過ぎ、やがて彼はひとつの結論へと至る。かつてのライバルであったガンダム、そして「アムロ・レイ」を倒すことで、自身の迷いは解き放たれるのではないかと。この時既にニュータイプとして覚醒を遂げていたシャアもまた、かつてのニュータイプ達と同様、同じニュータイプであるアムロの亡霊に惹かれていたように思われる。

 一方でまた、アムロも同じように苦悩していたことは偶然ではないだろう。地球連邦軍の独立新興部隊へと復帰を果たし、新型のガンダムを開発するも、その心は晴れてはいなかった。最初の小惑星落下を目前で阻止できなかったにもかかわらず、事実を受け止める彼の様子にはどこか深刻さが欠けている。彼もまたこの時、自らの正義を主張しながらも迷い、ララァとシャアの亡霊に取り付かれていたのかも知れない。

 やがて間もなく二人は惹かれ合い、戦場で再び火花を散らすこととなる。



【新型ガンダムとサイコフレーム】

 新型ガンダムの開発が終盤に差し掛かる頃、出所不明の新素材が急遽持ち込まれる。「サイコ・フレーム」と呼ばれるその素材は、人の感応波を機械信号へと変換するマイクロチップを、分子レベルで金属に閉じ込めた構造素体である。ガンダムにこの素材を用いれば、パイロットの意思伝達を瞬時に行い、攻撃および防御行動の驚異的な高速化を実現する。正に夢のような素材であった。
 しかし、この素材がネオ・ジオンのシャアによって供与された事実に、この時誰も気付いてはいなかった。実はシャアは、アムロとの戦いに完全勝利するため、あえて密かに敵に塩を送っていたのである。それ程に、シャアはこの戦いに賭けていた。



【アムロとの戦い】

 ネオ・ジオンはついに、計略によって入手した小惑星を、再び地球へと落下させる最終作戦を決行する。それを阻止せんとするガンダム。シャアとアムロが、再び宇宙で激突することになった。
 ともに人類と地球の未来を憂う二人だったが、両者の主張はことごとくすれ違っていく。

アムロ 「俺達と一緒に戦った男が、何で地球潰しを!?」
シャア 「地球に残っている連中は、地球を汚染しているだけの人々だ。地球は人間のエゴ全部を飲み込めやしない。」
アムロ 「人間の知恵はそんなもんだって乗り越えられる!」
シャア 「ならば今すぐ愚民ども全てに英知を授けて見ろ!」

アムロ 「革命はいつもインテリが始めるが、夢みたいな目標を持ってやるから、いつも過激なことしかやらない。しかし革命の後では、気高い革命の心だって官僚主義と大衆に飲み込まれていくから、インテリはそれを嫌って世間からも政治からも身を引いて世捨て人になる。」
シャア 「私は世直しなど考えていない。愚民どもにその才能を利用されている者が言うことか!」
アムロ 「貴様ほど急ぎ過ぎもしなければ、人類に絶望もしちゃいない!」
シャア 「結局、遅かれ早かれこんな悲しみだけが広がって地球を押し潰すのだ。ならば人類は、自分の手で自分を裁いて、自然に対し地球に対して贖罪しなければならん。アムロ、何でこれが解らん。それを解るんだよアムロ!」
アムロ 「解ってるよ!だから、世界に人の心の光を見せなけりゃならないんだろ!」



【サイコフレームの共振】

 地球への落下コースを辿った小惑星だったが、それをガンダムの推力で押し返そうと必死になるアムロ。無駄な努力にも思われたが、彼を手伝おうとする両軍パイロット達が現れ、皆の意思が結集したことで奇跡が起こる。集積した人の意思はガンダムのサイコフレームを共振させ、ガンダムに想定外の推力を与えたのである。これによって小惑星は地球の引力圏外へと押し出され、辛くも地球は守られてしまう。

 サイコフレームの共振現象はこの時初めて観測された。そこから放たれた強烈な光は、地球に住む多くの人々も目撃することとなる。
 世界に人の光は確かに示され、二人の願いは実現された。しかしそれでも、人類はニュータイプに進化しなかったし、ジオニズム思想が成就することもなかった。シャアが目指した地球の寒冷化は叶わず、また彼がガンダムに勝利することも無かった。

 後にある者はこう言った。

「サイコフレームを媒介に、恐らくは地球圏の全人類の無意識を集積、物理的パワーに転嫁したのであろう光。小惑星を押し返したサイコフィールド。だが、それ程の可能性が示されても、人は変わらなかった。現状を維持するためなら可能性さえ葬る、それが人間だ。我々はその現実の中で平和と安定を模索していくしかない。」

 人は変われなかった。
 この戦いにより、シャアはアムロとともに三度、行方不明となる。その後に彼らの姿を見た者は居ない。そして人類の争いの歴史はこの先も途切れることなく続いていく・・・。

 



以上が、映画『機動戦士ガンダム逆襲のシャア』を中心とする「第二次ネオ・ジオン抗争」のあらすじと世界観です。「ファーストガンダム/一年戦争」から始まるシリーズ「ユニバーサル・センチュリー(宇宙世紀)」作品の集大成とも言うべきもので、私が最も素晴らしいと思う作品です。この世界観というか悲壮感に惹かれて、何度観たかわかりません。



【ちょっと解説】

前回の「機動戦士Zガンダム」のアニメが放送された3年後の88年に、この映画は公開されました。制作ペースが物語中ともほぼ同じ3年の期間を挟んでいる点が、また憎い演出ですね。当時小学生だった私が映画館に入ると、館内が大人のオジサン達で溢れていて驚きました。

余談ですが、アムロとシャアはこれ以降の作品には登場しません。ただし、現在続いている『機動戦士ガンダムUC(ユニコーン)』というオンライン配信アニメ作品では、シャアのクローンとされる「フル・フロンタル」という人物が登場していて、そのストーリーは続編と言っても良いかも知れません。記事の最後にある発言は、このフロンタルのセリフから引用しました。
全7部作のうち既に6部作までが公開済みで、最終回の公開は2014年春ということです。全部見終わったら、また5分にまとめたくなりそうです。
 参考:機動戦士ガンダムUC公式サイト



【逆襲のシャア社会学】

「ネオ・ジオン」という言葉の由来は、言うまでもなく「ネオナチ」でしょう。ネオナチとは、本来の解釈ではナチズムを再興しようとする思想のことです。しかし実際のネオナチも、記事冒頭の初期ネオ・ジオンと同様に、シンボルや格好だけを真似しているだけのケースが多いようですね。
 参考:Wikipedia記事「ネオナチ

初期ネオ・ジオンが朝廷の権威だけを利用した武家政治そのものだったのに対し、シャアによる新生ネオ・ジオンは原理主義への回帰です。いつの世も、権威を露骨に利用したり、権力が形骸化するほど、その反動として懐古主義的な原理主義思想が高まります。

例えば70年代、アメリカからの支援を拡大していたイラクでは、規制緩和や男女平等など、民主主義寄りの政策を推し進めていました。やがて、夜中になると若者達が闇ディスコに繰り出し、ジーパンを穿いて酒を飲み踊るような状態にまで至ると、さすがに宗教指導者や伝統的なイスラム教徒からの反発を招きました。しかも、政権はそれを無視するどころか弾圧したため暴動が発生。やがて、79年のイスラム原理主義革命へと至り、その後のジハードの流行へと繋がっていきます。

こういう争いとガンダムの物語がよく似ているというのは、もう鉄板ネタですね。
 参考:wikipedia記事「イラン革命

他方、劇中でアムロがシャアに対して述べる革命論も興味深いです。政権を放り投げた鳩山元首相が中国を訪問し南京事件を抜け抜けと謝罪したり、原発事故処理で失態を繰り返した菅元首相がつい先日も「もう首相はやりたくない」と発言したりと、ほぼアムロの言う通りですね。まさに世捨て人達です。
 参考:msn産経ニュース記事「中国各紙、好意的に報道 鳩山氏の南京大虐殺記念館訪問」
 参考:毎日jp記事『民主党:公開反省会開く 菅氏「もう首相やりたくない」』



というわけで、これでガンダム社会学の全3部作が完結しました。もちろん、ガンダムネタはまだまだ尽きませんが、社会学は十分書き切ったように思います。本来ならば、「コブラ」とか「沈黙の艦隊」とか、もっと宗教や政治っぽいネタを書く方がブログタイトルに沿っている気もしますが、とりあえずは封印しておきます。

今回も最後までお付き合い下さりありがとうございました。次回からはタブーを書きますので、どうか見限らず、引き続きお付き合い下さいますようお願いします。



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