5分でわかるガンダム社会学 | この国のタブー

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素人だけに、それみんな知ってるよ?ってこともあるかもしれませんが。
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ガンダムと聞いて、子供のプラモやオタクな中年を想像し、ウザがるお気持ちもよくわかります。そりゃそうです。良い歳した大人が熱烈にアニメを語ったところで、聞く方はうんざりしますよ。
深く深くお察しします。

でも、お台場にもドデカイのが立ったことですし、これだけ社会現象にもなれば、いい加減に少しかじってみても良いかなって思いませんか?AKBを嫌ったところで、もうサビくらいならば歌えてしまいますし、食わず嫌いを貫くにも限界はあります。

そこで今回は、アニメなどのオタク色を一切排し、ガンダム用語も極力使わず、誰にでも伝わる活字のみでガンダムの世界を描きます。ガンダムを一度も見たことの無い方でも、5分読めば伝わるようにコンパクトにしました。
暇で暇で全くやる事が無い時で構いません。是非ともご一読下さい。




 物語は遠い未来の地球から始まります。

 主役は、シャア・アズナブルという一人の青年将校です。




【宇宙移民政策】

 アポロ宇宙船が地球を飛び立った時代から、長い長い月日が流れた。

 もはや地球環境は限界を迎えつつあった。人口の爆発によって水と空気は汚れ、あらゆる資源は枯渇。母なる地球は既に、全人類を養うだけの力を持っていない。

 状況を打開すべく、地球連邦政府はひとつの決断を下す。人類の宇宙移民政策である。月とその周辺に「スペースコロニー」と呼ばれる巨大な宇宙居住施設を複数建設し、市民をそこへと移住させることにしたのである。これによって多くの人々が宇宙へと旅立って行った。地球へは2度と戻らない、そんな決意を胸に秘めて。

 最初の宇宙開拓移民として送り込まれた人々の多くは貧困層だった。彼らは、ここで子を産み、育て、死に、世代を重ね、繁栄していった。当時の宇宙移民の暮らし振りは決して明るいものではなかったが、地球を守るためには他に選択肢が無かった。
 一方の地球には、一部の特権階級のエリートたちだけが残された。彼らは、「地球環境保全」などと名目を付けては地球に居座り、裕福な暮らしを独占的に謳歌していた。両者の立場の違いはやがて、変えることのできない決定的な格差社会を作り上げることになる。

 宇宙移民達に、地球連邦政府に対する選挙権や、スペースコロニーの自治権が与えられることは決して無かった。それもその筈で、環境を回復中の地球では開発ができないため、あらゆる資源を自活することもできず、全ては宇宙からの輸入に頼りきりになっている。スペースコロニーに自由を与えることは、やがては地球で暮らす特権階級にとっての死を意味する。こうして、地球が宇宙を支配する構図が長らく続いていくことなったのである。人々はそれを棄民政策と非難した。

 同時に、移民達が抱く不満や憎悪は次第に拡大し、世代とともに積み重ねられていった。


【カリスマの誕生】

 宇宙移民政策の開始から50余年が過ぎた頃、地球から最も遠いスペースコロニーに一人の政治家が誕生する。
 その名は「ジオン・ダイクン」。

 彼はまず、宇宙移民の手による新たな宇宙国家の建設を唱え、地球に対して自治独立を宣言した。さらに、地球に残ったエリート達も全て宇宙へ移民すべきであると訴え、地球環境の保全と回復を図るべきだと主張したのである。彼が抱いたこれらの思想は、その名を取って「ジオニズム」思想と呼ばれた。

 また、ジオン・ダイクンは、宗教的とも言うべき強いカリスマ性の持ち主だった。彼の思想は、地球から長きに渡って疎外され、迫害され、搾取され続けた宇宙移民達にとっての、一筋の希望でもあった。やがてジオニズムは移民達の精神的な支柱となり、彼の死後も人々の心を延々と捉え続けることになる。



【ジオン暗殺と一年戦争勃発】

 「ジオン公国」を独立建国した矢先、ひとつの悲劇が起きる。ジオン・ダイクンが、自らの側近だったザビ家によって暗殺されてしまうのである。

 政権がタカ派のザビ家に委ねられると、公国はすぐさま地球連邦政府に対して宣戦布告を行った。地球に残ったエリートと宇宙移民との存亡をかけた戦い、すなわち「一年戦争」が勃発する。
 最初の1週間の戦いで、公国はスペースコロニーのひとつを地球に落下させるという暴挙に出る。市民をもターゲットにした大量無差別殺戮である。その効力は巨大隕石落下と同じくらい絶大で、全人類110億人のうち、実に28億人もの人間がこの攻撃によって一瞬のうちに死んだ。人類は自らの行いに恐怖を覚えた。

 地球とジオン公国の国力には30倍もの開きがあったため、戦争当初、地球に住む人々はこの戦いが長く続くとは予想していなかった。しかし、「ミノフスキー粒子」と呼ばれる電波妨害物質の発明によって、勢力は拮抗することになる。遮る物のない宇宙空間での戦闘は通常、宇宙戦艦によるビーム砲撃やミサイル攻撃が主流である。しかし、ミノフスキー粒子による電波妨害はレーダーを全て無効化したため、地球連邦軍の従来型兵器を事実上無力化した。これにより、戦況はしばらく膠着状態に陥った。

 やがて、この膠着を打ち破る新兵器がジオン軍の手によって開発される。「ザク」の登場である。人型を模した宇宙初の「モビルスーツ兵器」はレーダーに頼らない白兵戦で圧倒的な戦力を発揮し、連邦軍の戦艦を次々と沈めていった。



【モビルスーツの戦い】

 そうした中、公国軍パイロットに、武勲に秀でた一人のエースパイロットがいた。彼の名は「シャア・アズナブル」。単騎で攻め込み、一度に5隻の戦艦を沈めるほどの実力の持ち主。その機体の塗装色から、人は彼を「赤い彗星のシャア」という二つ名で呼んだ。
 しかし、彼はジオン公国に決して忠誠を誓っていたわけではない。彼の本当の名は「キャスバル・ダイクン」。すなわち、ジオン・ダイクンが残した実子である。父を殺し公国を乗っ取ったザビ家への復讐を誓い、自らの名を隠して公国軍に潜入していたのである。事実、彼は戦乱に乗して上官であるザビ家末弟ガルマを陥れ戦死に追い込むなど、着実に自らの目的を果たしていった。


 彼はある時期、連邦軍による新型モビルスーツ開発の情報をキャッチし、地球近くに位置する連邦支配下のスペースコロニーを強襲偵察する。そこで目撃したのは、白い機体にトリコロールデザインを施した連邦の新兵器、「ガンダム」だった。
 ここからシャアは、このガンダムを奪取あるいは破壊すべく、幾度となく攻撃を仕掛けていく。しかし、次々と手を打ってはみるものの、これらの作戦はことごとく失敗。ジオン軍もシャアを支援して次々と新兵器を投入するも、どうしても勝つことができない。ガンダムを操縦する「アムロ・レイ」という少年はその才能を徐々に開花させ、部下達は次々と撃墜されていく。

 しかしまだこの時、ジオン軍はガンダムを甘く見ていた。いや、それはシャア自身も同じだった。


【ニュータイプの出現】

 当初のガンダムは、明らかに未熟だった。戦闘経験に乏しく、その強力な性能を持て余しているように見えた。しかし戦いを繰り返すうち、戦闘能力は急速に高まっていった。まるで戦場の支配者であるかのように。
 ガンダムとの戦いに明け暮れる中、シャアはやがてひとつの可能性に気付く。

 「ニュータイプ」。
 かつて、亡き父ジオンが描いたもうひとつの思想であり、人類進化の理想形。それは、まるでエスパーのように人々の心を理解し、遠く離れた場所からでも互いの存在を感じ取ることができる能力。人が宇宙に進出し、地球に住む人々と離れ離れになった結果、人類は互いを理解することを忘れてしまった。人はいずれ進化しなければならない。遠く離れた者同士が、いつでも隣人のように感じ合える日がいつか訪れる。
 シャアはガンダムのパイロットにその可能性を見出したのである。

 しかしなぜだ。それだけの能力を持った者が、どうして地球連邦側に加担しているのだ。宇宙に住む人類がこれほどまでに苦しんでいるのに、なぜその力を人々のために役立てようとしないのか。

 シャアにはそれが理解できなかった。もちろん、彼の心には父ジオンが残したジオニズムが脈々と流れていた。ザビ家への復讐を誓う一方で、地球に住む特権階級に対する積年の恨みが頭を過る。さらに、ニュータイプ思想の実現という人類の未来への可能性。様々な思いが交錯する程に、彼は苦悩していく。


【ララァとの出会い】

 地球に降り立ったシャアは一人の少女と出会う。

 「ララァ・スン」。
 戦況の全てを正確に把握し、敵の攻撃を予知し、感応波だけで反撃を加えらえる類まれな才能。それはまさしくガンダムのパイロットと同等か、それ以上の能力を持った少女であった。この出会いによってシャアは確信する。人類がニュータイプへと進化しつつあることを。
 また同時に彼は、このララァという少女に対して特別な思いも抱くようになる。それは恐らく純粋な愛ではなく、彼女に失った母の姿を重ねていたのかも知れない。


【最終決戦】

 再び宇宙へ上がったシャアだったが、ガンダムとの戦闘において、自分を庇ったララァを失ってしまう。
 ララァを殺したガンダムのパイロットへの憎悪と、彼女を失った悲しみ。ニュータイプにもなれず、ガンダムを倒すこともできない自分自身に対する情けなさと怒り。様々な思いを内に秘めながら彼は最終決戦の地へと向かうが、結局は一度もガンダムに勝利することなく敗戦を迎えることとなった。

 一方のザビ家は、戦いの最中にもかかわらず激しい身内争いを演じていた。家長のデギン・ザビ公王は長男ギレン・ザビに謀殺され、長男ギレンは妹キシリア・ザビによって殺害される。その妹キシリアの撤退する間際をシャアが撃ち、一連の復讐劇にはピリオドが打たれることになった。
 しかしシャアの心は晴れなかった。

 開戦から1年、ジオン公国は地球連邦政府と終戦協定を締結し、事実上の敗北に至る。公国政府は解体され、ジオン共和国自治政府が設立された。




以上がいわゆる「ファーストガンダム/一年戦争」などと呼ばれる、「機動戦士ガンダム」のシリーズ最初の作品の世界観とあらすじです。

普通は、子供の頃にこのアニメを見ても、単なるロボットアニメということ以上は理解できません。しかし大人になってから見直すと、当時のイメージとは全く異なるシリアスなストーリーが見えてきます。今、大人になったガンダム世代(40代)が熱狂しているのは、そのストーリー性に惹かれているためです。


【ちょっと解説】

ガンダムに描かれる世界観の最大の特徴は、戦争は決して「勧善懲悪」ではないという点です。独立戦争を仕掛けた側にはそれだけの理由があり、相手を殺すだけの遺恨があります。とは言え、武力で虐殺を繰り返すテロリストを政府側が看過することなどできません。どちらが正義か、どちらが勝者かということは、結局は線引きでない。ガンダムはそんなメッセージを伝えています。

ご存知の方はとうにお気付きでしょうが、実際のアニメ原作では、「赤い彗星のシャア」は主人公ではありません。ガンダムのパイロットで主人公の「アムロ・レイ」の最大のライバルとして、敵役として描かれています。しかし大人になって見直すうちに私は、真の主役は「赤い彗星のシャア」ではないかと思うようになりました。そんなわけで今回は、主人公を逆転して書いてみました。
(『赤の肖像』っぽくなってしまいましたが・・・)


ちなみに原作者の富野由悠季は、実はロボットなど描きたくなかったそうです。しかし当時のアニメ業界では、玩具業界とコラボしない作品など許されませんでした。で、仕方なく書いたわけですが、どうせSFを描くならばファンタジーではなくリアリティを追求しようという発想に至り、結果的にはその発想がガンダムを大ヒット作品へと押し上げました。

また冨野は戦争だけでなく、宗教や神話など歴史への造詣が深い人物のようで、作品中でもそうした表現が登場します。さらに彼は1941年生まれですから、幼少時に大東亜戦争末期や敗戦直後の日本を見て育った方ですし、作品には平和への願いも込められているのかも知れません。ガンダムには、戦争の悲しさや人々の苦しむ様子などが、およそ子供向け作品とは思えないくらい描写されています。

例えば、ジオンという言葉はシオンに由来します。シオンとは今のイスラエルのことで、ユダヤ教徒とイスラム教徒が千年以上の争いを続けている土地のことを指しています。ジオニズムの語源である「シオニズム」という言葉は、ユダヤ教徒の「シオンの丘へ帰ろう」という意味が込められていて、つまりは聖地イスラエルをイスラム教徒から奪い返そうという思想です。ジオンという言葉には、その争いが不毛なものであるという批判的主張が込められているように思います。
 参考:Wikipedia記事「シオニズム

他にも、抑圧された宇宙移民達がジオンというカリスマを生み、それをあたかも教祖のように崇拝していく様子は宗教の誕生を思わせますし、兵士たちが「ジーク・ジオン!(ジオンに勝利を)」と叫ぶ描写はナチス・ドイツの「ハイル・ヒトラー!(ヒトラー万歳)」を連想します。実際にナチスでも、「ジーク・ハイル!(勝利万歳)」という言葉が使われています。
 参考:Wikipedia記事「ナチス式敬礼



【ガンダム社会学】

で、やっと本題です。いや、大好きなガンダムを書きたかっただけのようにも思えますので、こっちはおまけかもしれませんが・・・。

ガンダムを見ていて一番感じるのは、今の日本人の価値観がジオン寄りだということです。中韓との摩擦や対米関係ももちろんですが、格差社会の拡大などはまさにイメージが重なります。リーマンショックのようにアメリカ経済界の狂人達に翻弄される社会や、夢や希望を抱けないくらい閉塞感に満ちた若者像、「このままでは国が滅亡する」と煽り立てるメディア。これらにピッタリと当てはまります。つまり、ガンダムは現代の縮図なんですね。



ということで、ガンダム好きによる粗末なガンダム講釈でしたが、最後まで読んでくださりどうもありがとうございました。特に、ガンダムを見たことが無い方や、ガンダム嫌いな方が読んでくれたとすれば、深く深く感謝いたします。

ちなみに、ご要望さえいただければ、これ以降の物語を書く意欲はあります。これ以上のクオリティーは難しいですが、それでも良ければ是非コメントください。


・・・え?タブーじゃないって?

うーん、良く聞こえなかったのでもう一回言ってもらえますか?(おい)



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