朝5時、起床して布団から出たとき、床が濡れているのに気がつきました。カーペットがぐっしょりだったのです。何かこぼしたのかと思いましたが、そんな形跡はありません。ユニットバスも使っていないし、12階建てマンションの5階の部屋ですから、雨漏りではないようですし、そもそも雨は降っていないようです。
しばらく原因を調べてみて、どうやら隣の部屋との壁からどんどん侵入してきているようでした。どうしようもなかったので、とりあえず5時40分に110番しました。1階のゲートがロックかかっているので警官を迎えに行くためドアを開けたら…廊下一帯水浸しでした。そして、隣の部屋のドアの隙間からすごい勢いで水が噴き出しています。しかも、重々しい水温が室内から響いているのです。
エレベーターは危険に思えたので非常階段を降りました。途中の階を覗くと、4階もかなり水が浸透しているようでした。1階にもところどころ水がしたたっていました。
やがて、制服の巡査が自転車でやってきました。ちょうど、エレベーターの扉が勝手に開きました。激しい水が天井からしたたって、現実とは思えない光景です。警官は仰天して消防署に連絡していたので、私はとりあえず部屋に引き上げましたが、その間も水はどんどん流れ込みます。書籍や布団は濡れてしまいましたが、ワンルームマンションでは逃げ場がありません。
隣室はヘアサロンで夜は人がいないから、誰も気づかなかったのでしょう。しばらくして、消防士が訪ねてきて、うちのベランダから隣の部屋へ移りたいと頼んできました。4人くらいに消防士が部屋を横切り、隔壁を乗り越えて隣のベランダに移動し、窓を壊して侵入したようです。配管工事のミスが原因だったようで、消防士が水を止めたことでとりあえず被害の拡大は収まりましたが、部屋の両隣と4階からしたの部屋は壊滅状態でした。
そんな状況下、朝食も食べられず仕事に向かいましたが、今度は悪性リンパ腫で自宅療養していた父の容態が悪くなって入院したと妹から電話が入りました。仕事を早退させてもらい、まず自宅の状況を見に帰ると、もうむちゃくちゃで、家主や管理組合の人といろいろ話していると、妹から父の容態が急変したと連絡が。大急ぎで駆けつけましたが、病室に飛び込んだときはもう意識がなく、すぐ臨終となりました。
人生で一度しかないことと、普通一度も起きないだろう事件に父の遺志を感じたのは、冷たくなっていく手を握りながらでした。埼玉の一隅に母一人遺していくのが心残りだったのではと考え、浸水を機会に実家近くへの転居を決めました。
そして、今、春日部市に新たに部屋を借りて、仕切り直すことにしました。どちらか一方の出来事ではこんな決意は起きなかったことを考えると、やはりこれは夏の怪異談といえるかもしれません。
