帰国して トランクを開けたら
ぷわ〜んと
異国の匂いがした。
太陽と
排気ガスと
ほんの少しのスパイスの香り。
私は
一気に
ベトナムへ
引き戻された。
初めて訪れた国は
それはそれは
おもしろかった。
コーヒー牛乳色したメコン川。
色あざやかな市場。
耳をつんざくようなクラクションの音。
お姉さんと私を呼ぶ甘やかな声。
全てが強烈に
私の中へ刻まれていった。
旅を振り返ったとき
笑みを浮かべながら
思い出されるものは
きれいなホテルのご飯や
観光バスでの
快適な時間などではなく
変な路地裏で
道に迷い途方にくれたことや
値段交渉に失敗した
不甲斐ない時間なのである。
よーし
次こそは失敗しないぞ
と 思いながらも
また きっと失敗して
泣き笑うのだろう。
さあ
トランクを閉めて
手を洗ったら
夢のような時間とは
おさらばして
私は私の生活を始めることにしよう。