澄んだ空の下で、そろそろ日が暮れかかっていたころ、少年がやってきた。少年は大きな青いバックを背負っていた。
「僕はお弁当を食べなければいけないんだ。そしてそれは今じゃなくちゃいけない。
もう、お昼はとうの昔に終わってる。だからこそ、今じゃなくちゃいけないんだ。」
少年はそう言った。少年ってお弁当が嫌いなのかな。私はそう思った。
「いいんだよ。君がもっているお弁当はみんな食べられるためにあるんだから。
もう、4時を回ってるから、少し驚いてしまったけれど。」
できるだけゆっくりと、私はそういった。少年は、はにかみながらお弁当のお箸を持ち、私は微笑みながら車のアクセルを踏みだした。
もしかしたらこれから、僕は、今から君にテスト結果を聞くかもしれないけど、君は僕の質問に答えなくてもいいし、あるいはそうしなくてもいい。
少年は急いでお茶を飲もうと青いバックを開けると、重大なことに気がついた。
水筒がない。
おまけにテキストが1冊もないときている。
「やれやれ」
私はそう思ったし、少年の顔もそう語っていた。おたがい等しく、疲れている。
問題。
車は塾――今いる交差点から3キロメートル先にある――にもどることにした。
Uターンして、時速45キロメートルでそこに向かい始めた。
すると、車は何分後に塾に着くことになるだろう?
少年は、好むと好まざるとに関わらずそれを「計算」しなければいけない。
少年はすぐさま、15時間後!と勢いよく答えた。
「算数の世界は見直しをしないで答えをだしちゃダメなんだ。誰かがそう決めたんだと思う。窮屈だけれどね。」
完璧な中学受験などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。