『盗作』を読みました
飯田譲治監督の『盗作』を読みました。
⇒ 『盗作』
一人の女性の生涯を描いた大作ですが、こうした生涯物って大好きなんですよね~
きっかけは、高校の時に読んだ『ケインとアベル』でしょうか。
この『盗作』は、もう滅茶苦茶お勧めです!
平凡な女子高生が、ある雨の降る晩、突然なにかに取り憑かれたように1枚の絵を描き上げます。
そして、誰もがその絵に感動を覚え、畏怖の念を抱きます。
しかし、著名な絵画の大賞の受賞も内定していたとき、その絵と酷似したモザイク作品がすでに存在していることが判明します(ちなみに、このモザイクを作ったのはアナンです。すなわち、『アナン、』と連作になっている芸の細かさに思わず微笑がこぼれます)
世間を騒がせていた天才少女は、一転、「盗作」の汚名を着せられます。
しかし、彼女は、アナンのモザイク作品は見たことも聞いたこともないのです。
そして、高校卒業と同時に逃げるように故郷から上京した彼女は、再び、不思議な体験をします。
今度は、勝手にメロディとその歌詞が湧きいずるのです。
厳密には、光に包まれるように、その不思議な何かが彼女の意思と一体化し、かくして名曲が完成するのですが・・・。
舞台はその後、アメリカ、スペインと場所を変え、主人公の彩子は、「芸術」に翻弄され続けます。
芸術とはなにか?
創作とはなにか?
『盗作』は、この難しい問題に真正面から取り組んだ傑作です。
とにかく面白くて、一気読みできてしまいます。
飯田監督の作品は、『アナン、』も『Gift』もそうなのですが、長編の割に疲れずに、一気に読めてしまう、いえ、読まずにはいられないのが特徴です。
その最大の理由は、やはりストーリーテラーとして飯田監督が天才であることだと思いますが、僕なりに気付いたことがあります。
それは、飯田監督の筆致です。
計算なのか無意識なのかはわかりませんが、文章がワルツのリズムを刻んでいるんですよね。
トン・トン・トン、トン・トン・トン、という感じです。
そして、時々、3拍目の「トン」が「ドン」になったり「パッ」になったり、そこで、読者は思わずドキリとさせられたり、その表現の美しさに心打たれたり、また、思わず笑いがこぼれてしまいます。
要するに、単調なワルツではなく、規則正しいのですが、時折りシンコペーションのようなリズムが入ります。
そして、物語の中には、当然、何回か盛り上がりのシーンがあるのですが、その直前になってくると、明らかに、このワルツのリズムが変化し、
「お、なにか、起きそうだぞ」
と、読んでいる者は無意識のうちに期待度が高まっていきます。
本当に、凄い才能だと思います。
なにはともあれ、『盗作』、お勧めです!