振返へると老人は立ち去ろうとしている風に見えました。
安心感と共に余りの不思議なことに二人は駆け寄り挙手して礼を云い、「お名前をお聞かせ下さいと。」と。
「俺は入来村の鷹の子権現である。」と云うと姿は消えてしまったのです。
二人は鹿児島の出身ではなかったので、他の兵隊達に入来村というのを聞いて廻ったという。
そして九州南端のこの地へ。
この入来村の名前については亘って父が調べたことがありました。村会で昔の殿様の名前を村名にしようとの提議があり、入来院村にしようと。
調査の得意な父が調べた処、全国に入来という土地はあっても、入来村と云うのは只この村一ヶ処であることが分かり、入来村と云う名前は残すべきだと人人に説明し、遂に入来村を変更しないことになったのです。
ちなみに入来院重光氏は父に好意を持ち、度度訪ねて来て下さったのを子供の頃よく覚えて居ります。
公私混同しない父の対度というものです。
突出している緑の山上に祭られている鷹の子権現。
二人の兵隊はあの高い山上の社にお詣りし深い感謝を捧げたことでしょう。
南支にでもありそうな突出した山。
「お神(カン)さあは風んごと飛んで支那ん山ん中まで行きつきやったもんぢゃなぁ」
神様は風のようにとんで、中国の山の中までいらしたのぢゃなぁ。
母は小さな目を丸くして云ったのです。