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| 昔、北陸のある村に蜂蜜好きな百姓がおった。 |
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| 今日も町へ出て蜂蜜を売り歩いた。 |
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| 蜂蜜を売ったお金があるので、夜の町で遊んだ。 |
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| 一人、峠の坂道をトボトボと歩いての帰り道 |
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| いつのまにやら少し前を手ぬぐいで顔を隠した女が一人歩いとった |
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| 振り返ったのを月明かりで見たら、このあたりでは見た事の無い顔だった。 |
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| 「はて、どこの誰じゃろ~。それにしてもこの夜更けに一人で出歩くとは…。 |
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待てよ~、こりゃぁ。話に聞いていた狸のしわざに違いねぇぞ。ようし~、とっ捕まえて
懲らしめてやろう」 |
| 追いかけて、えり首をつかんで引き倒してした。 |
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| 「あれ~、何をなさる・・?」 |
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| 「なさるもくそもあるもんか~!。このど狸め」 |
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| 「ご免なして、ご免なして~。私はたしかに狸だす。けんど、今夜はあんたを化かすとて |
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出たんと違います。」 |
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| 「ほんなら、誰をだまそうと出て来たん・・・?」 |
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| 「この向うの権三さん夫婦をからかって、夫婦喧嘩をさせるに行きよるだす。 |
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| それは面白い喧嘩が見られるんですよ・・・。あんたもご覧にならんか・・?」 |
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| 百姓は、権三夫婦の喧嘩は面白いと確かに聞いていたので |
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| 一辺見てみようかという気になってタヌキの女を許した。と。 |
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| 権三夫婦の家に着いたら、タヌキの女は |
「あんたは向うへ廻って、窓の障子から覗きなはれ。私は戸口から入って行くけに」と云うた。 |
| 蜜蜂好きな百姓は言われたとおりに障子窓のところへ行った。 |
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あいにく、覗けるような隙間が無かったので、指につばをつけて障子に穴を開けた。
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| 権三夫婦は寝ていた。 |
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| これでは喧嘩は始まる所では無い、と思っていると狸の女が表戸を叩いて |
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| [権三さん~権三さん~。あの~ちょっと話がありますけに出て来ておくれな~」 |
| 権三がようやく目を覚まして表へ行こうとしたら、女房も目を覚ました。 |
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| 戸口ではやさしい女の声がする。 |
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| 「あんた~、あの声は何よ」 |
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| 「お、おれは知らん」 |
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| 「知らん女がこんな夜更けにどうして訪ねて来るんよ」 |
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| 「そんなこと言われてたって、おら~知らん」 |
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| 「あ~ぁ、くやしい」 |
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| 女房は権三の胸をぶつやら顔を引っかくやら大騒ぎが始まった。 |
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| 「さぁ、面白くなって来やがった」 |
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| 蜂蜜好きな百姓が障子の穴を大きくしようと指をなめては穴をえぐり、指をなめては |
| えぐりしていたら、ドカン~と胸をど突かれてばったり倒れて気を失った。 |
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| しばらくして気がついたら、目の前に大きな馬の尻があった。 |
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| そこは権三夫婦の家ではなく、とある農家の馬小屋だった。 |
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| 今まで障子の穴だと思って指でえぐって覗いていたのは何と馬の尻の穴・・・ |
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| 胸をドカンとどつかれたと思ったのは、その馬に蹴られたのだった。 |
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| 「あの狸の女め。おいらを化かすとて出たんと違うと云うたのに・・・」 |
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| 蜂蜜好きな百姓はこの夜、夜の女に騙されるは狸に化かされるは馬に蹴られるは |
| 散々な夜だった。 |
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| 山ではメス狸の笑う声がいつまでも聞こえていた。 |
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| どこかの地方にある昔話からちょっとお借りしました。 |
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