彼がゆっくり瞬きをして
ささやく。
「キスしてもいい?」
話はその3日前に遡る。
私の働く店に二人の青年が来た。
一人は長身で人の良さそうな顔立ち。
決して男前ではないが穏やかな空気をまとっていた。
もう一人は目のくりっとした人懐っこそうな
ああ、モテるんだろうな、と容易に想像できるような出で立ちだ。
二人は静かにお酒を飲んでいたが、おだやかな彼が
「お姉さん、綺麗ですね。」と声をかけてきた。
飲みの席である。
私は、ああサンキューリップサービス、と思いながらも
悪い気はせず
「お上手ですね。」とにっこり微笑んでおいた。
お互い明日には忘れるような出来事である。
それから少しして、
「お姉さん、連絡先教えてよ。」
と二人に言われた。
普段の私であれば、
さらっと適当に返して教えないところだが
今月は友人の結婚式や出産があり
少なからず焦っていたところがあった。
それに加え、最近参加したコンパや婚活パーティでは
たいした成果もあげられず、
そもそもこちらが興味を示せる相手にも巡りあえていなかったから
今回のこのさわやかな二人組の登場は
女としての気持ちをくすぐられていた。
「ねえ、ここにLINE ID書いて」
私は少し考えるふりをし、
「特別ですよ。」
と言って箸袋の上に連絡先を書き留めた。
「悪用しないでくださいね。」
お会計を済ませると
男前の彼がこっそり耳元で
「LINEのID検索が不可の設定になってるみたいなんだけど。」
と言ってきた。
そうだった。慎重な私はID検索不可にしていた。
でも、それを言ってくるってことは、本当に私と連絡が取りたいんだ、、
と急に恥ずかしくなると同時に嬉しかった。
「後で設定しなおしておきます。」
と言って笑う私の顔には
若いイケメンを狙う下心が隠れていたかもしれない。
その日の夜、早速LINEが来た。
名乗っていはいるが、どちらかは分からない。
内容を見て、ああ、穏やかな方の彼だ、と理解した。
➖連絡先無理に聞いてごめんね。
本当にタイプだったので。
➖そんなこと言ってもらえて嬉しいです。
その日はとりとめのない会話をして
おやすみ、と会話を切った。
次の日私の心はいつになく弾んでいた。
最近男性と連絡を取り合う時は
義務感でやっていた。
もう35才。いつまでも独身やってる場合じゃない。
相手に対して好意がなくても
いい人かもしれない、好きになるかもしれない、と
なんの心も動かないまま
社交辞令で返していた。
でも、今回の人は別に悪くはない。
それに、こんなにも面と向かって容姿を褒めてもらったことは
今までなかったので、浮かれていた。
またその日もその人とLINEをしていたが
ピコン
もう一人の人からもLINEが来た。
男前からだ!と思った私は心を弾ませて
そのトーク画面を開く。
➖どうも!奥に座っていたものです!
え?
奥に座っていたのは穏やかな方だ。
私は混乱して、初めにLINEをくれた相手にメッセージを送った。
➖今更なんですけど、手前に座っていた方ですか?
➖そうだよ!目のおっきい方笑!
ええ?
ええええええ?
男前の彼が
私をタイプって言っていたってこと?????????
えーーーーーーーーー。
私はその場に座り込んで悶絶した。
少女漫画のような設定じゃないか。
ーーーーーー長くなりそうなので、続きます。