今回一番好きなコマ
こんな格好で、こんな距離で迫られたら・・・たまらないやつ。

◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇

数日後。ボドゲ即売会。
「遊んでらっしゃい、見てらっしゃい!!【OGATAファクトリー】渾身ボドゲはいかが!?」と、メイド服にて全力で売り子をする紗和子。
対して「お・・・お~・・・」「いらっしゃいませぇ
~・・・」とへろへろの成幸と理珠。
「なぁによ2人とも・・・。せっかくの即売会だってのに・・・ずいぶんヘロヘロじゃない」と不思議がる紗和子。慌てて「あ・・・すまん関城」「大学の課題などで少々寝不足でして・・・」と言い訳する2人。
ここでメイド服姿の理珠のたわわな胸元に目がいってしまう紗和子。「ふぅ・・・まったく・・・。で?この衣装はどうしたのよ?何故メイド服?」と、鼻血を放出しながら尋ねる。
「即売会のこと話したら小美浪先輩がな・・・。」と説明する成幸。
◇◇◇
『そーゆーイベントはまず目立たねーとな!』と、最もそうな、しかし、ただ面白がってるだけのような口振りの小美浪先輩。
◇◇◇
「借り物だから鼻血で汚さないでね?」と一応紗和子に釘をさす成幸。

そんな、やいのやいのしている3人の背後から声をかける紗和子母。「あ、あの、唯我さん、緒方さん。この段ボールはこちらでいいですか・・・?」
すかさず「すっ、すみませんお母さん、手伝ってもらっちゃって・・・!」と詫びる成幸。「い・・・いえ、お世話になっていますしこれくらい・・・。すみません、なかなか部屋が決まらずずっとご厄介に・・・」と申し訳なさそうな紗和子母。
そんな紗和子母に「あっ、もう一仕事お願いできますか、お母さん!!」と頼む理珠。「え!?は、はい!!」と紗和子母はすんなり引き受ける。
そんなやりとりをじっと見ていた紗和子は「ちょっと、唯我成幸・・・!何故うちの母まで呼んでるわけ!?関係ないじゃない・・・!」と、成幸に耳打ち。「うお近ッ!!!」と驚く成幸だったが「それは・・・もうちょっとだと思うんだけど・・・」と言いながらスマホをチラ見。「?」と紗和子が不思議がっていると「あの・・・すみません。は-20aとはここでよろしいでしょうか?」という声が。「あっ、いらっしゃ・・・」と言い掛けて、固まる紗和子。
そして「お父さん?」と口にする。
紗和子父、母も「翔さん・・・?」「計子・・・?」と静かに驚くが、やや気まずそうに、ふい・・・と視線を逸らす。
「ちょっ・・・お父さん!!!どうしてここに!?」と、ハッとして尋ねる紗和子に「え?君がメッセージをくれたんじゃないか紗和子。話があるから今日の12時この場所にって・・・」とスマホを見せながら、応える紗和子父。
「はぁ!?わ、私そんなメッセージ送った覚え・・・」と言ってスマホを確認するが「あれぇ!?ログ残ってる!?どうして!?」と身に覚えがなく困惑した様子の紗和子。
関城親子のやりとりを「?」と、不思議そうに見つめる理珠。対照的に成幸は『助かったよ、みさおちゃん!若干犯罪臭がするけど・・・』と、幽霊のみさおにアイコンタクト。みさおは『えへへっ、さわこのスマホならもうおてのもの!』と得意気な様子。昨晩紗和子が眠っている間にこっそりスマホを操作していたのだった。

「・・・それで、紗和子。話というのは・・・やっぱり・・・僕らの別居の・・・?」と聞いてくる紗和子父。紗和子は一瞬何か言いかけるも「・・・何言ってるのよ、お父さん。二人の人生なんだから、好きに生きてくれたらそれでいいわよ」と、寂しげな笑顔で応える。
紗和子父は一呼吸おいた後「・・・そうか、君の元気そうな顔が見られてよかった。それじゃ僕は仕事に戻・・・」と、立ち去ろうとする。が、すぐさま「あーっと、そうだお父さん!!!せっかくだし試遊していきませんか!!?」「そっ、そう!!せっかくですからね!!」と成幸と理珠に引き止められる。
そして試遊スペースにて向かい合う関城家の3人。『な・・・なぜよりによってこの3人で・・・どういうつもりよ、唯我成幸、緒方理珠』と、きまずさを感じる紗和子。
「じゃあ・・・1ゲームだけ・・・」「え、ええ・・・」と父母も同様に気まずそうな中でゲームスタート。
『サイコロ5・・・ということは【うどん+2】のマスね。散々テストプレイしたおかげで盤面もほぼ暗記・・・』と思いながらコマを進める紗和子だが、マスに書かれていたのは《親友と一緒にペンケースを買いに行く!【うどん+6】》という文字。「!」と驚く紗和子。『あら・・・変ね・・・こんなマスあったかしら』と考えた所で

◇◇◇◇◇◇◇
「ずいぶんボロボロのペンケースを持っているのね、明日の休みにでも私が選んであげましょうか」
◇◇◇◇◇◇◇

と理珠に声をかけた過去を思い出す。
更にゲームを進めていくと《親友と一緒にオープンキャンパスに行く!》《親友と一緒にパジャマパーティ!》《親友とペアでストレッチ!》《親友とパンケーキ!》《親友と生物室の標本を・・・》《親友と・・・》といった、理珠と
紗和子の思い出のコマばかり。そして紗和子はようやく気づく。
『この盤面・・・ところどころ違う・・・。《私》だけに向けた・・・全く別のバージョン・・・』
そうして成幸と理珠の方に視線をやると、2人とも見守るようにこちらを見ている。
成幸は数日前のことを思い出していた。

◇◇◇◇◇◇
寝ている紗和子と紗和子母が起きてしまわぬよう、別室で作戦を寝る成幸、理珠、みさお(幽霊。成幸にしか見えていない)。
理珠「え!?紗和子のためにもう一つゲームを作る!?」
成幸「あぁ、サプライズでこっそり作ってさ、親御さんと一緒に遊んでもらうってのはどうだ?」
と提案する成幸。
理珠「な・・・成程!し・・・しかしそれが紗和子を助けることになるのでしょうか・・・!?」
成幸「それはわからん!」
理珠「えぇっ!?ではやはり両親に和解を直談判した方が・・・!」
みさお「いやここはみさおが両親の夢枕に・・・」
と、意見がまとまらない一行。
成幸は一旦押し黙るが「もしそれで何かが変わっても、あまり意味がないと思うんだ」と、口を開く。
『〈寂しくないフリ〉して生きていく方が、楽じゃない』と言っていた紗和子を思い出しながら成幸は
「関城が作った心の壁を壊せるのは、関城しかいないんだと思う。だから俺らにできるのは、目一杯《大好きだ》って伝えて、俺らがそばにいるから大丈夫だって、背中を押してやることだけだと思うんだ」
と力強く話し、これには理珠もみさおも心を動かされる。そして、あのクリスマスの夜に成幸が「嫌わないぞ」と伝えてくれたことも思い出した理珠の口元は、少し微笑んでいた。
熱く語ったはいいが「とはいえ現実的にな・・・このギリギリのスケジュールの中、並行で2本ってのは、やっぱさすがにキツ・・・」と弱音を吐きかける成幸に、被せ気味に「《できない》と思わないことから始めましょう!」と気合いをみせる理珠。ずいっと前のめりに迫ってきた理珠に「うおっ!?」と驚く成幸だが、理珠はそんなことお構いなし。「勉強でも何でも、同じですよね!」と目を輝かせ、意気込みを見せる。
頬を赤くしながら「り・・・」と言いかける成幸だが
「コツコツ計画的に若干の無茶と根性で乗りきればなんとか大丈夫ですっ!!」と言う理珠に「そ、それは大丈夫なのかっ!?」と、やっぱりいつもの感じでツッこんでしまうのだった。
◇◇◇◇◇◇

そして回想は終わる。
理珠も紗和子を見守りながら、紗和子専用ボードゲームを作っている時の気持ちをなぞっていた。『知っていますか、紗和子。紗和子は紗和子が思っている以上に、ずっとステキな子なのです。いつも元気で頭がよくて、心優しい自慢の親友。何があっても私が、私たちが、ずっとそばにいますから。だから』
そして紗和子の止まったマスには《★さいごの宝★「かがく入門セット」を手に入れた!あの時の素直な気持ちに戻って【うどん×2】》と書かれている。それを見て当時を思い出し《ドクン》と紗和子の胸が鳴る。
マスを見た紗和子父、母が「・・・・・・懐かしいな」「・・・ええ」と話すのを聞き、驚く紗和子。
「仕事の合間を縫って、二人で町中探し回ったっけなぁ」「プレゼントを渡した時の、紗和子さんの嬉しそうな顔・・・今でもよく覚えてるわ」そんな両親の言葉を聞いた紗和子は、ボードの隅っこに、ラジカル分子を思わせるらくがきと〈がんばれさわこ!〉と書かれた文字を見つけ、再び成幸と理珠の方を見る。
『楽になるために、素直な気持ちから逃げないで』
こぶしを握りしめ、そんな気持ちを込めて熱い視線を送る理珠と成幸。
紗和子は一瞬キュッと口を結ぶが「・・・・・・だ。やだ・・・。私・・・全部いやだ。私本当はルームシェアもやめたくないし、二人が別居するのも全部いや。何より・・・仲が良かったあのころの・・・大好きなお父さんとお母さんがいないのが、一番いやだッッ!」と、堪えていた気持ちが一気に溢れ出す。
それ聞き、思わず立ち上がる紗和子父と母。「さ、紗和子っ!!!そりゃ僕だって本当は・・・ッ!!!」「お母さんだって・・・ッ!!!」と訴えるが、目が合うと『はっ』として冷静さを取り戻し、視線を逸らしてしまう。そんな2人だが、ぎこちないながらもそっと紗和子の頭を撫でる。

そんな関城親子を見て「・・・まだどうなるかはわからないけど、とりあえずはひとつ前進・・・かな」「はい」と言葉を交わす成幸と理珠。
そして成幸は関城親子に、幼き日の自分と亡き父を重ねていた。
突然「成幸さん」と言って成幸の服をきゅっと引く理珠。そして「私がいます。ずっと」と言い、まっすぐ成幸の瞳を見つめる。
かぁぁ、と赤くなり「な・・・きゅ・・・急に何言ってんだ、理珠!あ・・・あれか、また例の【ゲーム】かッ!?」とわたわたする成幸。しかし理珠は冷静に「いえ今・・・というよりずっと、成幸さんもしていましたよね?《寂しくないフリ》。だから・・・私がもう、させません」と伝える。
そう言われ『コトン・・・』と成幸の胸が鳴る。『・・・あ、あれ?コトン?』と戸惑う成幸なのだった。

今回も面白かったです。