6月26日、準決勝スペインvsロシア。
グループリーグ第1戦の再戦である。この戦いはスペインがスペクタクルなサッカーを展開し4-1でロシアを一蹴したが…。


前半30分、今大会ここまで4得点で得点王のビジャの足が止まる。フリーキックを蹴った直後であった。ビジャの表情を見ればどこかを痛めたという事は容易に察する事が出来た。結果的にビジャは右太腿の肉離れを起こしていたのだ。この日の天候は雨。ピッチも濡れていた。このピッチコンディションが少なからず何らかの影響を与えたのかもしれない。
スペイン代表監督のルイス・アラゴネスは予期せぬ選手交代を余儀なくされる。この日のスペインは4-4-2のシステム。ビジャとF・トーレスが2トップ。その内の一人がピッチを去ることになるのだから、当然FWのカード切ってくるに違いない。試合はまだ前半の30分と少しを経過したところ。しかもまだ0-0である。しかしタッチライン際でビブスを着けて指示を受けているのはミッドフィルダーのセスクであった。私はそのまま2トップを保つために、今シーズンのピチーチ(得点王) を獲得したグイサの起用を考えた。だがアラゴネスの選択肢は4-1-4-1のシステム“Quatro Jugones”(4人の創造者)であった。
怪我の巧妙とはまさにこのこと。
ビジャのアクシデントによる交代で、トップ下にセスク、シャビ、イニエスタ、シルヴァの4人を並べることでスペインはポゼッションを高めリズムを取り戻しつつあった。しかし0-0のまま前半は終了する。

この交代の答えは後半早々に得点という形で表れる。

後半が始まる。開始4分。中央でボールを受けたシャビは左に開くイニエスタにパスを出す。イニエスタは右足インスイングでゴール前に低く鋭いクロスを入れる。そしてそのボールに素早く反応したのはイニエスタへパスを出したシャビであった。ダイレクトで合わせたシュートはGKアキンフェエフの股間を貫く。そう。4人の創造者の2人によるパス交換からの先制点であった。あえて違う言い方をさせてもらえば『バルサライン』からの得点だ。バルセロニスタの私にはたまらない先制点だ。もう一回言おう。『バルサライン』からの得点だ。
その後スペインの美しいパスサッカーには拍車がかかりロシアゴールへ次々と襲いかかる。
この良い流れの中、アラゴネスが再び動く。いくらスペインが圧倒してるとは言え、まだ最小点差の1-0である。時間もまだ20分以上残っている。にもかかわらずアラゴネスの選択はMFシャビ→MFシャビ・アロンソ、FWフェルナンド・トーレス→FWグイサの2枚代えであった。正直驚きだ。相手のベンチには戦術家、名将ヒディンクがいる。当然何らかの手を打つに違いない。残り時間を考えれば同点に追いつかれた時、延長、怪我人…この時点で交代枠3人を使い切るにはあまりにもリスキーな選択だと感じた。交代枠のみならず、ここまで素晴らしい働きをしていたシャビの交代も驚きではあったがF・トーレスの交代には更に驚かされた。良い流れの中から生まれた決定機に幾度となくゴールにアタックし続けていたのがF・トーレスであった。得点の臭いが漂う中、アラゴネスはスパッとトーレスに見切りをつけグイサをピッチに送り込んだのだ。決してアラゴネスが戦術を無視した感性だけを頼りに動く監督と言ってるわけではない。だが、それはまさに“直感”だと感じた。
その“直感”からわずか3分後、セスクのお洒落なパスを受けたグイサがGKをあざ笑うかのようなループシュート。スローモーションを見るかのようにゴールマウスにボールがすい込まれ2点目が生まれる。この日のロシアにとって2点目の献上はあまりにも重たいものであったのは言うまでもない。それから10分後、後半37分のゴールも4人の創造者の内の2人がロシアの息の根を止める。自陣からイニエスタが左オープンスペースでフリーになったセスクへパス。セスクはそのまま駆け上がり左足でグラウンダーのクロス。最後はシルヴァが冷静にゴール左隅へ流し込む。これで3-0、勝負は決した。
前半に投入されたセスクは2アシスト。後半に入ったグイサが1ゴール。アラゴネス采配“直感”が勝った瞬間だ。

さぁ、明日未明いよいよファイナルである。
残念ながら怪我で退いたFWビジャの欠場は決定的のようだ。おそらく決勝もアラゴネスは4-1-4-1の“Quatro Jugones”を選択するだろう。ベスト8の呪縛を解き放ち、苦手のイタリアを相手に鬼門のPK戦で勝利した“無敵艦隊”スペイン。相手はゲルマン魂で勝ち上がったドイツだ。
決戦の地は作曲家モーツァルトが没した、ウィーンである。“指揮者”アラゴネスがふるタクトによって4人の創造者はどのような音楽を奏でることが出来るか楽しみで仕方がない。