岐阜県のほぼ中央を占める中濃地域にある郡上市、

東の飛騨山脈、西の両白山地の飛騨高地の山岳丘陵地帯に位置している。

平成の大合併により郡上町を含む7町村を市域としているため

隣接する高山市に次いで面積が広く、また北上するほど標高が高く、

その最高峰は標高1810㍍の銚子ヶ峰。

大日ヶ岳などに源流のある長良川は飛騨川から木曽川に流れる他、

市域北部の庄内流域、九頭竜川流域にも属し、

南は太平洋、北は日本海へ流出している。

郡上八幡は街並みや郡上踊り、白山信仰の地として知られ、

また中心市街地の八幡地区は城下町としての景観が保存され、

その趣や風情から奥美濃の小京都と呼ばれ、

全国京都会議にも加盟しているとか。

郡上市の人口37千人の大部分は、旧郡上郡の政治経済の中心地八幡町と、

福井県の玄関口で交通の要衝である白鳥町に集中し、

地元では北濃とか奥美濃とも呼ばれている。

因みに白山信仰とは、

加賀国、越前国、美濃国(石川、福井、岐阜)に跨(またが)

白山の山岳信仰。

古来より富士、立山と並び日本三名山と称される秀麗な白山、

山から流れる豊富な水は四方の川を満たし、

広く田畑を潤し農民のの命を繋ぎ続けたため、

山自体を祖神様として崇拝している。

奈良時代に修験者が信仰対象の山岳を霊山として日本各地で開山。

白山も例に漏れず、僧侶泰澄(たいちょう)が登頂し修験道を極めて体系化し、

今日の白山信仰を構築している。

 

旧交を温めながら隠れ家で一泊した翌朝、

Tが運転する車で北上し東海北陸自動車を経て一路、八幡山麓へ。

 

 

車で山城を目指す途上、高くなるに連れ九十九折れと狭い道路が続き、

対面車両との離合不能の場所が多くトラブルを心配したものの、

山頂近くの駐車場付近で対面車両の進入禁止看板を見て一安心。

 

車を降りて天守へ向かいながら、青葉茂れる山城の石垣を仰ぐ。

 

暫く石段を登ると青葉に囲まれた天守閣が見える。

 

青葉の木々と石垣の間から天守閣が垣間見える光景が素晴らしい。

 

 

郡上八幡城(築城主は遠藤盛数、1559年築城→1869年廃城)

天守は大垣城を参考に建てられ、全国的に珍しい木造4層の模擬城、

1933年に建設されると共に隅櫓2基と筑地塀も整備され、

現存する天守は木造再建城として日本最古とか。

 

郡上八幡城の成り立ちの経緯について簡単に触れてみる。

戦国時代末期、郡上一円は東氏が支配していたが、

吉田川の対岸にある牛首山(現八幡山)に砦を構えた遠藤盛数に依り滅ぼされる。

その後、遠藤家は織田信孝傘下に属していたため、

本能寺の変で織田家と対立する秀吉に依り追放され、新たに稲葉貞通が城主となり

砦の大改修を実施し、近世城郭としての郡上八幡城の礎が築かれた。

そして遠藤家は関ケ原の戦いで家康の東軍に付き功績を残したため、

遠藤盛数の長男、慶隆が城主に返り咲いて改修に努め、

江戸時代に入り5代藩主常久まで独占する。

その後、青山家が藩主の時に明治維新を迎え廃藩置県を機に廃城となり、

郡上八幡城は石垣だけを残し、取り崩されたとか。

 

 

午前8時半頃、城の中で木造の板の間や階段の軋む音を聞きながら

歴代城主の遺品や書物などを見て歩き、最上階から町並みを見下ろす。

山間を流れる吉田川の畔に佇む市街地を眺望すると、

かつて城下町として栄えた足跡や名残りが窺われる。

暫く城内を見学して駐車場に戻り、登りの反対方向にある道路で下山し、

山麓にある山内一豊と妻千代の像を横目に市街地へ。

 

瑞々しく白濁する清流吉田川、両岸に親水遊歩道も設置されているとか

 

川の水に浸かり鮎釣りを楽しんでいる様子、勇ましくもあり、涼しげでもある。

 

円形で白く光る建物は郡上市総合スポーツセンター

 

 

縦に長い白や青の旗が風に揺れ、子供たちが無邪気に戯れる新町通の商店街、

せめて盆踊りの雰囲気に触れたいと思い、車を止めてスマホを向ける。

郡上踊りは日本三大盆踊りの一つで

徳島の阿波踊りや秋田の西馬音内(にしもない)踊りと並び称され、

毎年7月中旬から9月上旬までの32夜に亘り開催され、

特に盂蘭盆の徹夜踊りに全国から数万人の踊り子が集まるとか。

 

Tの車で町内を一通り巡回して感じたこと、

長閑な山間に佇む癒やし系の雰囲気が漂うイメージだけでなく、

乱世の戦国時代を生き抜き、武家社会の江戸時代を経た活気ある集落だと

新たな感想を抱きつつ、郡上八幡を離れた。

 

「岐阜は日本の歴史に刻まれた場所が多い県やなあ」

「長年の地殻変動で少しずれたけど、日本列島の中心地であることは確か。

まあ、人間の体で言えばヘソに当たるからね」

「そういえば地理的にも中心地やね。

ところで世界遺産の白川郷へも行きたいなあ……」

「また気楽に遊びに来たらええやん、案内するから」

持つべきは友、ありがたい言葉も混じる会話を交わしながら

帰路もTの運転する車で岐阜駅まで届けて貰う。

そして寄り道もせずに大阪駅を目指して新快速電車に乗り込み

どっかり席に座り一息吐く。

加齢が進み後期高齢者のステージに近付く昨今、

今回は青春18きっぷの一人旅にチャレンジしたものの、

疲れ果てて足腰が少々痛む。

今後は車窓から移ろう景色を楽しむ長旅は若者に任せ、

高齢者は老体を鞭打つ無理などをせず、

便利で早く、体力の消耗の少ない新幹線を利用したいと考えつつ、

這う這うの体で自宅に辿り着いた。

今回は新規に青春18きっぷを購入したので、9月10日期限の残りが三回もある。

それでも旅をしたい気力は未だ衰えていない、

次回は何処を訪れようか逡巡するのも楽しみの一つである。

 

(写真撮影は8月7日水曜日、猛暑日続行中)