はるばる関西から飛行機に乗り初めて訪れる新潟市、

元より名所旧跡巡りを思い描いていた。

偶々後輩Fの体調不良で無理矢理スケジュールに押し込み

移動手段をレンタカーや路線バスで想定したものの、

何れも中途半端で「帯に短し田耕に長し」。

ネットで検索して市内巡りの定期観光バスのようなものを探し、

漸く「新潟市観光循環バス」に辿り着く。

市と新潟交通との共同で9時半~17時、万代口バスターミナルから

30分ヘッドで出発し14カ所の停留所を時計回りに運行する

乗車定員35人のバスで1回乗車210円。

さらに1日乗車券500円を買えば各バス停でフリーに乗降でき、

市内中心部の水族館や博物館並びに美術館など主要な施設を

効率的に周遊できる便利な運行システムとか。

 

弥彦からJR越後線で新潟まで戻り、万台口バスターミナルで

一日フリーチケットを購入し市内観光バスに乗車。

瞬く間に11座席は観光客で占められ立席を余儀なくされ、

5番目のバス停「白山公園前」で下車する。

 

白山神社は彌彦神社や護国神社と並び総鎮守として

新潟県を代表する神社の一つ。

主祭神は菊理媛大神(ククリヒメノミコト)や

古事記に出て来るイザナギノミコトやイザナミノミコト。

永禄(1558年~)と天正(1573年~)の二度の火災により

創建は延喜(901年~)とも伝えられている。

 

本殿は三間社流造銅板葦、

これから「七五三」や初詣などで賑わうことになる。

 

瓢箪池回遊式庭園の色付きつつある落葉樹木、

もうすぐ紅葉シーズンを迎える。

 

次は遅れてきた循環バスに乗車し

新潟生まれの文豪坂口安吾(1906~1955年)の生家を訪ね

バス停「西大畑坂上(砂丘館入口)」で下車。

道路沿いの門を潜り警備員に確認して違う施設と分かり、

二人の道行く人に尋ね、あちらこちら右往左往する。

坂口安吾は狂気やデカダン、気紛れが混じる不思議な人物で、

評論『堕落論』『白痴』で時代の寵児となり純文学や歴史小説、随筆など

多彩な執筆活動に従事した近代日本文学を代表する無頼派作家。

紆余曲折を経て漸く辿り着いた安吾「風の館」は生憎、

火曜日は休館日と知り愕然とする。

それでも、よくある事だと気を取り直し北方文化博物館まで歩き、

近くにある旧齋藤家別邸に入り観覧券300円を支払う。

齋藤家は明治から昭和初期にかけて新潟の三大財閥の一つに数えられ

衆議院や貴族院議員を歴任した豪商斎藤喜重郎の別荘。

また本宅は白山公園に移築再建され燕喜館として活用されているとか。

最後に池泉型回遊式庭園を見終えて近くのバス停へ向かう、

同年代と思われる夫妻が中腰で循環バスマップを指差している。

「私達、半分以上市内観光をしてるわね」

足腰が疲れる姿勢を見かねパンフレットを渡す。

「これがあれば便利ですよ」と運行システムを説明する。

彼等はフリー乗車券の発売所を確かめながら

「遅いけど何で今まで気付かなかったのだろう」と苦笑する。

地元の人ではなさそうなので問い掛けてみた。

「私は兵庫県からですけど、どちらからですか?」

「私達は神奈川県の横須賀です。兵庫と言えば阪神大震災の時に……」

27年前ご主人が神戸で単身赴任の経験談を語ろうしたその時、

目の前にバスが横付けされ会話が途切れてしまった。

 

循環バスに揺れながらこのまま名所巡りを続けるべきか、

それとも新潟駅構内で土産物を買うべきか思案している間に終点に着く。

ホテルに着いた初日、フロントでチェックインの手続きをする際、

全国旅行支援のクーポン券三日分を入手。前回ゴートの時は

利用確実なホテルや空港の売店を選択しているので尋ねてみた。

「このチケットが通用する店は何処ですか?」

フロント嬢は此処に売店はないと告げ、PCでネット検索をしながら

「駅構内の売店CoCoLo新潟なら大丈夫です」と教えている。

循環バスを下車して新潟駅の二階へ上がってCoCoLo新潟へ赴き、

笹団子や越後柏餅、柿の種など米処ならではの地元の菓子を籠に詰め込み

精算をするため行列に並び台の上に置く。

「お客さん、笹団子の賞味期限は三日です。他の商品と代えた方が……」

レジ嬢の助言に従い近くにある商品を適当に選び集計して貰う。

「送料を含めても少し足りません。ドーナツ一個入れれば丁度になりますが……」

釣銭が要らないよう提案を受け入れクーポン券に20円加算して精算し、

別のレジ台で宅送の手続きを済ませ「みどりの窓口」へ。

「明日新幹線で越後湯沢へ行くんですがICOCAは使えますか?」

JR東日本の新幹線ではSuicaしか使用出来ないとのこと。

「それから日帰り往復切符の割引はありませんよね」

前日ないと言われた割引券、念のため受付嬢に再度確かめてみた。

「えちごワンデーパスなら千円以上の割引が効きます」

思いがけない返答を聞いて直ぐオーダーしてクレジットで精算。

彼女から往復券5枚を含み全部でカード9枚と収納袋を受取り

往路と復路、案内券などに分け紛失しないようバッグに入れた。

実は一昨日、後輩Fからラインが入り

「今は検査段階なので何とか参加する方向で調整できた」とかで、

明朝越後湯沢駅で合流する約束を交している。

これで準備を整えたとばかりにホッと一息吐きホテルに戻り、

9階の部屋で歩数計を確かめると何と28000歩を刻んでいる。

道理で足腰が痛む筈だと思いつつ服を着替え、

疲れを癒やすためタオルを携えながらエレベーターに乗り

大浴場のあるB1のボタンを押した。

 

(写真は10月25日火曜日の午後に撮影)