「クビになっちゃいました~」

 先月中旬、電話を取ると不動産屋の社長さんが自嘲気味に含み笑いながら僕にそう告げました。

 地元に根付く会社で地主さんとも長年の付き合いがあるのに、なぜ? 

 市との契約本番が間もなくの、この時期にいきなりの降板?

 飾り気なく人が良さそうな社長さんでした。すべては地主さんの意向で、社長さんは本当の理由を知るのか知らないのか、それ以上語ることはなく新しい会社が引き継ぐことになりました。

 少しの不安とモヤモヤした気持ちを残しながら、僕は電話を切りました。

 

 後日、郵便受けに青い封筒を見つけました。郵送ではなく直接届けられたようです。中には引継ぎ会社の資料1枚と社長の名刺が入っていました。

 検索してみると自宅からすぐ近くの不動産会社で、妻によると息子同士が小中の同学年で親しい仲だったといいます。土地勘のない大手がいきなり来られるのは……と考えていた僕はちょっとだけ安心しました。

 当日は市からいきさつを伝えるメールが来ました。僕から送ろうと思っていた矢先だったのでこれはありがたい1通でした。

 

 市との協議を済ませて新代理人となった社長さんとの初対面も済ませています。良き縁となることを願いながら、話し合いを進めました。

 再び市からも連絡をもらい、地主と借地人に偏ることなく話を詰めていくと社長さんが語ったことを知りました。

 

 地主さんの意を汲み、家を取り壊したあと私たちは残地から立ち退くことになるでしょう。

 誰かが悲しむようなことなく、市・地主・私たちがウィン―ウィンの三方良しで完結することが僕の望みです。

 

 来週月曜日に2度目の打ち合わせを控えています。

 

 ふんわり静かに・・・。