文中の文字色による注釈と解説一覧 



○○マッサージ ・・・足裏マッサージ


五尺六寸 ・・・約170cm


こと ・・・足裏マッサージ。足のツボは痛いって聞いたことがあるけど、どれくらいだろう。どきどき。

 ・・・靴下。

そこ ・・・くるぶしから下の、裸足。なお、西洋人にとって裸足を見られるのはヌードを見られるのとほぼイコールな羞恥であるらしい。

もの ・・・おしぼり。

それ ・・・足の親指。

「こんなに反り返って・・・」 ・・・びっくりして足の親指が反ったのでしょう。

股 ・・・親指と人差し指の間。指の股。

「溜まっているようだねぇ」 ・・・凝り、疲労が、ですよ。

根本 ・・・親指のつけね。

表面 ・・・足の裏。土踏まずの辺り。

「そ、こは・・・っ」 ・・・痛い、イタタタ。ちょっとストップ!の意味。

敏感な箇所 ・・・土踏まずとか、足首の内側とか。血行がよくなって足がぽかぽかしてきた状態をさす。


布の塊 ・・・脱いだ靴下。

店の名 ・・・店名Daydreamは白昼夢の意。ちなみにDaydream believerとは夢想家をさす。


「そんなに切羽詰まっちゃいないよ」 

 ・・・足裏マッサージされるとお通じが急によくなることがあるらしい。「前屈み」になってるせいではありません。どうやらファニーは誤解しているようですが。


「見かけよりずっと~」

 ・・・痛いと言わないから遠慮なく揉んでやったとも。意地っ張りだねぇ。の意。









「---悪趣味だなあ、相変わらず」

 かすかに軋んだ扉から物憂く現れた姿に投げかけられたのは、明るく乾いたそんな非難の言葉だった。

                   ボウヤ

「おや、そうかい? 可愛らしい青年だったじゃないか。・・・茶を淹れておくれ、ファニー」

 言いながらその人は煙草盆を手繰り寄せる。

「分かってて言ってるでしょ」

 わずかに肩をすくめて、ファニーは傍らの磁器を手に取った。

 奥の間での客とのやりとりはこの控え室に筒抜けだから、頃合いを見計らって用意しておくのはいつものことだ。

 カップに注ぎながら、ファニーはため息の続きをついた。

「・・・あんなにあおっちゃって、可哀想に。今頃トイレに駆け込んでんじゃないかなぁ、彼。---ホント、悪いヒトなんだから、春さんてば」

 くつくつと笑って春はカップを手にする。

「心配しなくても、そんなに切羽詰まっちゃいないよ。・・・たぶんね」

 一口すすって満足そうに小さく息を吐き、入れ違いに煙管を盆から取り上げる。

「へええ、手加減したんだ!? あの子のことそんなに気に入ったの? 珍しいなぁ」

 大袈裟に驚いてみせるファニーに、春は薄く笑う。

「見かけよりずっと強いボウヤだったよ」

「あらら・・・手加減したんじゃなかったの?」

 目を上げもせずお代わりをカップに注ぎながらのファニーの揶揄に、

「してやったさ。一晩眠れば忘れられる程度には」

 春は煙管をぷかりとふかし、目を細めた。盆の縁で逆さにした雁首をぽんと叩いてから、にんまりと笑う。

「ま、・・・今夜眠ることが出来れば、の話だけどねぇ」





                            (終)










BGM・・・「赤い砂漠」藤澤ノリマサ

      「East Asia」中島みゆき

      「わがままジュリエット」BOφWY

      「G線上のアジア」篠崎正嗣









 





 肩にぶつかられ、我に返った。すれ違った人に曖昧に頭を下げながら、ぼんやりと考える。

 あれは。

 夢だったのだろうか。

 ・・・どこまでが?

 不意に、ポケットの中の小さな布の塊に気づいた。

 まさか。

 道理で、やけに下がスースーすると思った。赤面しながらひとりごちる。それを履いていないことになぜ今まで気がつかなかったのだろう。

 夢ではなかった証がそこにあった。

 あの長椅子で、あの手に脱がされて---

 その続きを思い出しかけて、慌てて首を振って頭から追い払った。思い出してはいけない。そう、たぶん、少なくとも何日か経ってからでなければ。

 肩越しにそっと振り返る。

 見慣れたはずのいつもの雑踏がやけに謎めいて見えた。この町のどこかに、あの不思議な空間がある。まるでそこだけ異世界のように。

 店の名はなんといっただろう。

 またいつの日か、逢うことができるだろうか。あの人に。

 すっきりしたはずの身体の奥で熾のように燃える炎があることに、彼はその時まだ気づいていなかった。



                           (続く)