ある男の命日につき | ファンキー・中村の“おっかねえかも知んない”話

ある男の命日につき

その男の名は青山といった。


ある日、永く女日照であったヤツに彼女ができた。

そこはかとなく薄幸さが漂う、ごくごく普通の女性であった。

青山はそれまでやっていたディスコのボーイを辞め、真っ当な昼間の仕事に転身した。

それからのヤツは、まるで人が変わったように働き続けた。

トラックの仕事なんかした事ないくせに、自ら臨んで運賃がいい長距離にも出て行った。



そんなある週末、イキナリヤツが現れたんだ。

手には一枚のドーナツ盤と、ミスタードーナツの箱。

「いいだろこれ。どっちも穴あき。」

こんな不細工な男であったが、今の彼女を本心から愛している!と中村に語る顔に嘘はなかった。

だから「よかったな」って言ってやったんだ。

すると姿勢を正し、急に改まった顔をして中村の顔をじっと見つめながらこう言う。

「こ、子供が・・・」

「ひっ、轢いたのかっ!」

「出来たんだよっ!!」

「!!」

「三ヶ月らしいわ・・・」

「お前がっ!ちっ、父親ぁ!!??」

「今日、役所行って入籍してきた。」

ソレを聞くなり、中村はすぐに電話で近在の仲間連中を呼び寄せた。

祝いの席にとビールを買い込んでくる者、焼き鳥屋で山ほど串を買い込んでくる者、

一気に中村の部屋に居酒屋臭が蔓延する。

「とにかくお祝いだ!ほら、お前の好きなビールで一杯いこう!」

そういってを勧めるが、この男。

「いや。」

一言そう言うなり、手渡したコップをテーブルの上に伏せてしまった。

「なんだよ・・・」

「やめたんだ、酒。」

あれだけ好きだった酒を切り捨て、今は何処に出しても恥ずかしく無い真人間になった青山。

それならばとジュースを注ぎ、近所迷惑な乾杯をしてその日は散会となった。

帰り際、青山は持ってきたレコードを中村に差し出した。

「これ・・・俺が以前女に振られた時に買ったんだ。もういらねえから、お前にやる。」

「おう。なんだかシラネエけど、後で聞いてみるわ。」

「いい曲なんだぞ。物凄く。今でも大好きなんだが、これからの俺には必要ねえから。」

「そうか。」

「じゃあな。」




三日後。

青山は死んだ。

居眠り運転による大型トレーラーに突っ込まれ、即死であった。

子供が出来たことを、あんなに喜んでいた。

嫁さんが出来たことを、あんなに自慢していた。

酒を断ち、悪い仲間を切り捨て、これからの人生に邁進しようと頑張っていた。



通夜の席で、嫁さんが近付いてきてこう言ったんだ。

「この子は・・・このお腹の子は、ちゃんと育てます。だって・・・この子は、あの人だから・・・」




あの時のお腹の子は・・・

今年成人式を迎えた。




青山があの日持ってきたレコード。

よければ命日の今日、聞いてやって欲しい。