電車の中でエロ本をプレゼントすると言って聞かない異国の男との死闘に打ち勝った私は烈しく項垂れていた。
海の向こうからやってきた逞しさからか、大将は相変わらず元気一杯だった。
元気一杯の癖にツカレタ、マッサージシテクダサイ、と、私の膝に自分の手を置いてきた。
どうでもよくなってきた私はその手をニ、三度指で押して本来あるべき所へ放り投げた。
その間も大将の話題はエスカレートしていた。
コノママアナタノヘヤニイッテイイデスカ?
ワタシノクニニキテ、カゾクニアッテクダサイ
心身ともに疲れ切っていたが、私は何とか話題を逸らそうと大将に聞いてみた
「何処の国の人なんですか?」
大将は暫しの沈黙の後、
「・・・ロシア、デス・・・。」
と答えた。
最初の方に書いたが、大将は闇夜に溶け込む小麦色の肌だ。
多少の暑さにも汗一つかかなそうなイイ色をしている。
(ロシア・・・本当かよ・・・)
何故か自分の生まれた国に詰まる日差しの似合う大将に心の中でツッコんだが、移民や何やらなどの知識は勉強不足な私には皆無なので取り敢えず信じる事にした。
正直大将に嫌気が差していた、しかし防戦のみというのも辛かった。
私は大将に連邦について色々聞いてみた。
私の実家があるところは港町で、主にロシアの船が着ていた事もあり懐かしくなったので当時のロシア人に対する疑問をぶつけてみたのだった。
すると大将からさっきの元気が消え、途端に歯切れが悪くなっていった。
大将の祖国である露の国の事を質問攻めしたが、大将が答えてくれたのはたった一つだけであった。
「ロシアってどんな料理があるんですか?」
「・・・ピロシキ。」
さっきまでウザイ程私の顔を覗き込んできた大将は私の目を見なくなり、それっきり黙り込んでしまった。
それから私は逃げるように電車から降りた。
薄暗い駅のホームにいる私を見て、宿を借りたいと熱望していた大将は明かりの灯る鉄の箱の中で悔しそうな顔をしている。
そしてそれまで居眠りを装っていたサラリーマン達は、皆顔を上げて興味深そうに此方をまじまじと見つめていた―助けてくれよ!w
終
その後大将は、朝私がどの電車に乗っても毎日隣に腰掛けてきた
変わらない私に飽きたのか、何時の日か何処に行っても会わなくなってしまった