私も覚悟は、していた。
いつかはこういうことを考えなければならないときが来るとは思っていた。
しかし、いざ自分の番となると、やはり面倒なのである。
私としては身内だけの簡単なもので良いと考えていたのだが、由香子がどうしてもウエディングドレスを着たいというのならしょうがない。盛大にやってやろうとは思うのだが。
大体、結婚式の招待状なんてものは、貰ってもちっとも嬉しくない物である。
正確には、結婚式は披露宴の前に親類だけで行う神前式のことだから、結婚式の招待状ではなく、結婚披露宴の招待状である。
が、そんなこと今はどちらでも良い。
問題はどのくらいまでの知人を招待するのか、という一点である。
過去、私も数々の披露宴に出席した。正直なところ、どう考えても披露宴に呼ばれるいわれの無いような奴の披露宴にまで出席したこともある。全くもって金をドブに捨てるようなものだが、呼ばれたからには行かねばならない。
そのような場合は出席して酒を飲んでも全く面白くない。当然である。周りに親しい友人がいるわけでもなく、私に結婚を祝う気持ちなんて微塵も無いのだから。
招待する側はもう少し慎重に人選してほしい、というのが私の持論である。
つまりそういうこともあるからして、私も結婚披露宴に誰を招待するかについては、十分に吟味した上で決定しなければならない、と思い考え出したところ、これは相当に面倒な問題であることに気づき、やはり容易には答えが出る筈も無く大いに頭を病んでいるのである。
山畑と本宮と山チャンと江川の4人を呼ぶことは決定だとしても、新郎友人が4人ではちと少ない気がするので、あと2・3人欲しいところだ。
―――吉井を呼ぶか?
いや、彼は駄目だ。
彼の性格からして素直に私の結婚を祝ってくれそうではある。しかし、なにぶん彼はいわゆる「前科一犯」であるからして、そのような者を披露宴に招いては両家の親類に申し訳が立たない。例え彼が二十歳のときに、近所のスーパーに小銭を盗みに入った罪を十分に償って立派に更生していたとしても、前科というものは決して消えないのだ。社会は厳しい。
―――では小木原はどうか?
うむ、特に問題はなさそうだが。
いや、まて、重要なことを思い出した。
彼は、類を見ないほどのケチではないか。
実家がチッポケな靴屋を営んでいて、薄暗い小さな店なのだが、潰れそうでいて中々潰れない。しぶとい。その親父譲りのケチなのか、ジュースの1本もおごってくれた例が無い。
さすがに祝儀を出さない、なんてことは無いだろうが、こんな奴から祝儀を受取ったら一生、何をされるか判らないだろう。
自分が中学のときに履いていたコンバースのバッシュ的な物を、流行だとかサービスだとか上手いこと言われて売りつけられそうだ。
大体、苗字が三文字もある奴にろくな奴はいないのだ。
―――ならヤスベーはどうだ?
やめておけ。
どこに自分の披露宴にワキガを呼ぶバカがいる。
せっかく用意された料理が全部酢の物になってしまうではないか。論外である。
なかなか呼べるような奴がいない。
―――じゃあ、高本を呼んだらどうだ・・・。
いや、彼は呼ぶべきではないだろう。
確かに高本は古くからの親友だ。
そしてすこぶるいい奴だ。
しかし、由香子の元彼だ。
高本を呼んだら、事情を知っている何人かは気まずい思いをするのではないか。
とても仲が良く、ゴールインは確実だと思われていたほどの二人だ。まさか別れるとは私も思っていなかった。
そもそも、なぜ別れたのだろう?
そういえばそのことについては聞いたことがない。
―――何が原因だったんだ?
高本の浮気か?
いや、高本はそんなことができる男ではない。
いや、そもそも、どちらが振ったのだろう。
私の見る限り高本にこれといった欠点はない。
高本が振ったのか?
おそらくそうであろう。
とすると由香子のどこが気に入らなかったのだろう。
由香子だってそこそこ美人であるし、気立ての良いなかなかのいい女だ。私が選んだだけの事はある。
いや。
まてよ。
私は高本が振った女と結婚するのか?
気にくわないな。
なんか、こう、男としてランクが下に見られるような。
高本より格下になってしまうではないか。
そもそも私は由香子のどこが好きなのだろう。私ほどの男が結婚する価値がある女なのだろうか。
うむ。
少しずつ気が変わってきた。
―――やめるか?
やめよう。
彼女と結婚するのはやめよう。
よくよく考えたら、私は彼女のことをそれほど愛していないではないか。
よし、決めた。
結婚はやめよう。
―――ならば交際はどうする?
うむ。
遊び程度ならよいが。
いや、やめよう。
それは時間の無駄だ。私は忙しいのだ。
結婚できない女と交際している暇はない。
―――告白は?
やめよう。由香子に交際を申し込もうと思い、いろいろ考えてみたが、彼女とは交際しても意味がないことがわかった。
危ないところであった。
もし交際していたら、とんでもない時間の無駄をしてしまうところだ。
やはり交際する前にイメージしてみて良かった。
世間一般の男は行動の前に私のようなイメージができないから、さまざまなミスを犯し堕落していくのだ。
私のように明確にイメージすることができる人間は違う!
そう、云わば勝ち組なのだ!
はっはっは。また一つ危ないところをすり抜けたぞ。
ま、私のような勝ち組には出来て当然だがな。
女に告白する前から、ふさわしい女かどうか明確に判断することが出来るのだから。
そう、私は勝ち組なのだ!!!
誰も私にはかなわない!私は勝ち組なのだーーーー!わーっはっはっはーーーーー!!!
は!?
おっと。
また悪い癖が出てしまった。
自分に酔ってばかりもいられない。
私もそう若くはないのだ。早く生涯の伴侶を手に入れなければ。
―――方法はどうする?
見合いはかっこ悪いから、まずは恋愛だな。
―――では誰に告白する?
うむ。迷うところだが、吉井の妹の美幸ならどうだ。
「ミユキ」だなんて、名前からして美しいではないか。
実際に会ったことはないが、まずブスではないであろう。
付き合うことは問題なさそうだな。
結婚まで行ったらどうする。式は挙げるか?
うむ。
だが面倒だな。
やれお色直しは何回が良いだの、引出物は何が良いだの、挨拶を上司にお願いするだの、誰を呼んで誰を呼ばないだの、ものすごく面倒な作業なのである。
いや、それはね、私も覚悟していた。
もう一度言う。
私も覚悟は、していた。
いつかはこういうことを考えなければならないときが来るとは思っていた。
しかし、いざ自分の番となると、やはり面倒なのである。
私としては身内だけの簡単なもので良いと考えていたのだが、美幸がどうしてもウエディングドレスを着たいというのならしょうがない。盛大にやってやろうとは思うのだが。
大体、結婚式の招待状なんてものは、貰ってもちっとも嬉しくない物である。
正確には、結婚式は披露宴の前に親類だけで行う神前式のことだから、結婚式の招待状ではなく、結婚披露宴の招待状である。
が、そんなこと今はどちらでも良い。