数日後、屋敷内ではご主人様と客人が話をしていた。俺は気付かれないよう襖の向こうの会話に聞き耳を立てる。しばらく雑談混じりの会話が続いたが、その後、思いもよらぬ情報を聞いてしまった。


 主人 「先日、うちの奉公人から聞いたのだか、あのお清殿が行方知れずになっておるそうな。やはり、あの噂はまことだったのだろう。もしまことならば、次は娘のお菊が危ないかもしれんな」


 せいきち 「あの噂?」


 俺には何の事だか検討もつかなかったが、ただ一つ分かるのは、お菊殿にも危険が迫っているかもしれないって事だ。
早速、俺はお菊殿にこの事を伝えたが、まったく身に覚えがないらしい。このままでは何時お菊殿に危険が及ぶか分からない。何としてでもその噂が何なのかを知る手立てがないだろうかと考えたが、ご主人様から聞き出す他に答えはなかった。 


 せいきち 「ご主人様。誠に申し訳けございません。先日のお客人との会話を私は聞いてしまいました。どんな罰でもお受け致しますので、どうかお菊殿に関わる噂というのをお聞かせ願いたいと存じます。お願い致します!お願い致します!!」 


 俺はサラリーマン時代に取引先に頭を下げる事が仕事だと思っていたが、今は人の命を救いたい気持ちで、初めて何度も何度も頭を下げていた。


 主人 「お菊殿は、母親や父親から何も聞かされておらんようじゃのう。ならば、わしの口からは何も言えんのじゃよ。勘弁してくれ」 


 ご主人様は固く口を閉ざしてしまった。何も情報を得られぬまま、俺は重い足取りでお菊殿の待つ家へと帰った。しかしそこにお菊殿の姿はなく、何者かに荒らされた状態の薄暗い光景が待っていたのだ。


 せいきち 「まさか!お菊殿の身に!」 


 慌てた俺は部屋を飛び出した!すると、ちょうど仕立てた着物を届けた帰りのお菊殿と鉢合わせた。お菊殿は無事だったのだ。お菊殿もこの部屋の有り様に驚いている。単なる盗っ人の仕業なら金目の物が無くなっているはずだか、それは手付かずのまま。となれば、やはりあの噂というのが気になってくる。この場に居ては危険と感じた俺は、お菊殿と簡単に荷物をまとめ、この家を出ることに決めた。
しかし、行く当てもない俺達は、無理を承知で奉公先のご主人様に頭を下げに出向いた。すると、ご主人様は俺達の様子を察し、何も言わずに部屋の奥へと通してくれたのだ。


 主人 「何もないとこだか、この部屋を使いなさい」


 ご主人様の有難い対応に感謝しかなかった。


つづく