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▼後編▼


「遅いっ!」

 戻ってきた最初の一言は、優海にとって短くて一番きつい一言だった。

「すみませんっ!」

そう言って、参加者リストを上司に手渡すと、急いで優海もカメラの準備に取りかかった。


 しかし、急いではいたが、優海は日本人とぶつかった時のことが気になっていた。

Souta Uraki…


Ryohei… Kuboki…?』


英語だった表記にすぐに気づくことが出来なかったが、確かに「Ryohei…」と言ったのを思い出した。

 上司が見ていた参加者リストを取り上げると、

「遼平・・・?」優海は急いでカメラを組み立てると、グラウンドに集まっている選手たちにカメラを向けた。


 少し背が伸びただろうか…でも、確かに遼平の姿があった。

すると、優海はとっさに遼平に向けたカメラのシャッターを押してしまった。

「あっ…」


「自分の気になった選手を撮っておけ。槇村の初めての取材選手だからな。」

「は、はい…」

 記者として初めての被写体が遼平になるとは、優美自身も思いにもよらないこと、優海もこの球場からスポーツ記者のスタートを切ったのだった。


 優海は遼平のことばか撮り続けていたが、上司からは一生懸命撮っている優海の姿としか見えていなかった。


 午前のテストも終わり、昼休みに入ると、遼平と蒼汰は通訳の人と一緒に食事をとるため、観客席まで戻ってきた。その様子を見ていた優海は、

 「槇村、そろそろランチ…」

 「すみません!」

 上司の誘いを遮るように走りだし、遼平の背中を追った。

 「遼平っ!」

 報道陣でいっぱいの連絡通路。優海の声は、遼平には届かなかった。

 優海は人込みをかき分け、裏側の通路へと出るが、すでに姿は見えなかった。

 肩を落としながら上司のもとに帰ってきた優海は、午後の準備のため機材の手入れをし出した。

「oh…」優海の心境がわからない上司は、連絡通路でホットドッグを買ってくると、優海に食べさせた。


トライアウトも終わり、記者室へと誘導されると、スカウト陣の取材が始まった。しかし、時間が気になっていた優海は、仕事に身が入らなかった。


誰もいないスタジアム…記者室を出るとすでに空は、赤く染まっていた。

優海は、もう一つの鞄からフルートを出し、静まり返るスタジアムいっぱいに音色を響かせた。


 突然の再会も声一つ届かなかった優海は、悔しくて涙が出てくるのだった。


連絡通路から観客席に出てくる人影に気づいた優海は、演奏を止め入り口に目をやった。

「優海…?」


「遼…平…?」

聞き覚えのある音色に気付いた遼平は、蒼汰を先に帰して、まだスタジアムに残っていたのだ。

「ホントに遼平なの…」

「あぁ…」

一回り大きくなった遼平の身体に優海は飛びついた。

「元気だったか。優海!」

「うん。遼平も…」

「あぁ…」

「俺の夢。。。メジャーリーグに来たよ!」

「うん…」優海はそう頷いて笑顔を見せるが、涙が止まらない。

「もう一回、フルート聞きたいな。」遼平は涙が止まらない優海にお願いをすると、「うん…」最初は震えた音色だったが、落ち着いてきた音色がスタジアム全体に響き渡った。



















▼中編▼

 ホテルのロビーに着くと、代表の試合を見てくれていた現地のスカウトマンが、帰国前、通訳を通して遼平に伝えにきてくれた。来月のトライアウトに受けに来いと…手応えに自信が持てなかったが、がむしゃらにプレイしていた遼平に目をかけていてくれた人がいた。

 遼平はそれを聞いて、米国で大好きな野球ができると、小さい頃に抱いていた夢に一歩近づくことに笑顔が隠しきれなかった。

 遼平は、帰国するとすぐに、大学の関係者を通じてトライアウトの申し込みを済ませた。そのときの遼平は、心の奥のもどかしさが取れたようで、清々としていた。

 大学へ戻った遼平たち四年生は、野球部を引退し、普通の大学生に戻っていた。しかし、遼平はトライアウトに向けて現役の部員と一緒に汗を流していた。

 そして、トライアウト当日まで一週間を切った頃、練習の合間バイトで貯めたお金で早めに現地に向かうことにした。

 代表合宿の時と同じシアトルでのトライアウト、先の見えない可能性で不安もあったが、遼平は出発ゲートの前で立ち止まり、これで夢に一歩近づくんだと再確認し、ゲートの奥へと踏み出すのであった。

 シアトルに着き、遼平はまずホテルを目指した。なかなか慣れない海外・・・言葉も通じない遼平がホテルに着いた時には、すでに夜も遅く、チェックインを済ますと自分の部屋に入るなり、すぐにベットに潜り込むのであった。

 翌日、昼過ぎに起きた遼平は、食事をするため外へ散歩に出た。現地の通訳の人と会うのも二日後、遼平は日本で買ってきた地図を片手にシアトルの町並みを散策した。

 シアトルの北部に広がる公園、ランニングをするカップルや家族が午後を楽しんでいた。

 遼平はその公園を通り抜けレストランを探しに商店街へ向かった。

 遼平は商店街に入ると、周りの建物にふと気づいた。

 比較的日本で見る店も多く、わりと溶け込み易く次第に足取りは軽くなっていた。オフィスビルを見ても日本で馴染みのある企業も多く、不思議と横浜にでも居るみたいだった。

 遼平は、ふとショーウィンドウの前で足を止めた…

 そこには、ワインカラーのロングドレスが歩行者の目を留まらせていた。

 優海が渡米する前に、潤たちとホテルのレストランで優海の送別会をしたときに着ていたドレスが展示されていた。この代表合宿に入ってからは、優海のことで考えないようにしていたが、あまりにも似ていたので、足を止めて少しの間見入ってしまった。


 でも、ここには優海は居ない…一呼吸溜息をついた遼平は、ふたたび歩きだすのであった。


 翌日…いつものように商店街を散歩していた遼平は、現地の通訳の人と待ち合わせの時間になり、シアトルセンターの噴水前に向かった。

 ここは昔、世界博覧会のあったところで、その跡地に造られた総合公園となっている。

 遼平は近くのベンチに腰掛け、遠くの景色を眺めていると、こちらに向かってくる人が見えた。

 現地のスカウト兼通訳も担当している『Nick Micheal』日本にも留学経験もある海外スカウト担当だった。

 彼の車に乗って10分ほど郊外へ行ったところの静かなレストランに入ると、「嫌いなものは無いよな…」遼平が返事もする間も無くホールスタッフにオーダーを伝えると、両腕の肘をテーブルにつけ遼平の方へ乗り出してきた。

 「率直に言わせてもらうと、日本人の何人かを対象に育成選手として来てほしいと思っている…」

 遼平は彼の言葉に驚いた。

最近の日本人の活躍が、大リーグを変えつつあることをNickは言及した。遼平も大リーグに挑戦する日本人に憧れていたわけで…自分も活躍ができればと夢を抱いていた。

 しかし、遼平だけの意志ではなく、家族や大学など関係者に相談させてほしいと言うと、Nickはうなずき「OK…」と遼平に手を差し伸べた。

 遼平は挑戦の場を提供してくれたNickに強い眼差しで握手を交わした。

 「OK!今日はNickからのおごりだ。思う存分シアトルを感じてくれ。」

料理を目の前に話していたせいもあり、遼平のお腹は鳴る寸前だった。

 遼平と連絡をとらなくなっていた頃、優海はインターンで学生と仕事を両立し、忙しい毎日を送っていた。

 日本にいたときから、スポーツ記者に憧れていた優海は、父親のツテで今の仕事を紹介してもらっていた。

 アメリカの記者は、野球、バスケットボール、ゴルフ、アメフト…一年中スポーツをやっているせいで、毎日が忙しかった。

 ある日、トライアウトを受けに来る外国人という特集で優海は、現地に取材に来ていた。

 今回の取材する会場はシアトル・マリナーズの3A『タコマ・レイニアーズ』の本拠地チェニー・スタジアム。

 このチームのトライアウトでは、毎回日本人が参加してはいるが、最終選考まではなかなか残れない現状、本国と外国人の違いで、体格も見た目で分かるほどの差であった。

 天気も良く、絶好の運動日和だ。

「行くぞ。槇村。」

「はいっ!」

 優海は、車から取材道具を降ろすと両肩にかけ、上司の後を追いかけた。



 会場の近くにホテルを借りていた遼平は、早めに受付を済ませようと会場へ向かうと、すでに受付は始まっていた。遼平は名簿にサインをしているとき、他の選手の欄を見ると、もう一人日本人が参加していることに気づいた。聞き覚えのある名前だったが、すぐには思い出せなかった。辺りを見回すと日本人らしい姿が見えた。声をかけてみると、代表の合宿で一緒だった浦木 蒼汰(うらき そうた)だった。

 彼とは同じピッチャーで、ともに代表合宿で過ごした同僚でもあり、癖もよく分かっていた。

 見知らぬ土地に独りで受けにくると言うことで、かなりの重圧感を持ってしまっていた二人は、お互いが出会ったことでそれが払拭できたのか、代表合宿の時のようにイイ緊張感の中で臨めるような気がしていた。

 新米(優海)の取材は、資料集めから始まった。

 結構、昔気質で冗談の通じなそうなおじさんに見える優海の上司は、記者室に今日の参加者リストをもらってくるよう優海に伝えた。

 初めての現地取材に切羽詰まっていた優海は、慌ただしく慣れない球場を走り回っていた。やっとのことで記者室へたどり着くと、すでに取材陣に参加者リストが関係者から配られていた。

 優海は、一通りの資料をもらい終えると、上司のところへ急いで戻った。

 途中スタジアムの外に目をやると、手入れがされた庭のようなところが…そして、通用口の奥を覗くと全面芝がきれいに手入れのされたグラウンドが見えた。

 やはり日本で見たスタジアムとは違った。。。優海は、アメリカに来てからというもの、見るものすべてスケールの大きさに圧倒されていた。

『…っ!!』

 優海がよそ見をしていたとき、ちょうど通りかかった人とぶつかってしまった。

Excuse me…」と倒れ込んでしまった優海に対して、

「だ、大丈夫ですか。」と日本語で返ってきた。


「…?」その日本語に気づいた優海は、差し伸べられた手を取り起こしてもらうと、

「日本の方…?」優海は見たままの質問をその男性に質問した。

「そう。浦木 蒼汰。よろしく。」

 見るからに日本人の体格に、優海も安心して

「槇村 優海です。現地の取材で来ました。」

「おう。日本の人だ。今日の取材は、俺が一番最初かな?」

「えっ?」

「取材は初めてなので…その…」

「へぇ~、新米さんだ。」

「はい…」

『蒼汰~っ?』遠くから遼平の声が聞こえた。

「おう。今行く。」そういうと、「俺、これからトライアウトだから、また後でね。」と言って、球場の中へ入って行った。

 トライアウト…今日の取材は、トライアウトを受けに来た外国人。日本人も来ているんだ…そう思った優美は倒れたときに広がってしまった資料をかき集め、

「えぇっと、Japan…っと…」参加者リストを読み始めた。

Souta Uraki…Japan

Ryohei Kuboki…Japan

日本人は、二人か…他にも探してみたが今回の参加で日本人は二人だけのようだ。

「…?いけない!」

急いでたことを忘れていた優海は、上司のところへ走っていった。

「前略 お元気ですか…」



20年ぶりに実家に届いていた貴女の手紙、あの頃のボクはいつも心許無く、封を開ける度不安があったけど、今は懐かしく心を躍らせています。

いつも喧嘩が絶えなかった二人だったけど、何時しか、お互いが別の人を慕い、敬い、そして幸せを求めるようになっていた。



ボクたちは、別れを決断するまで、いろいろと話し合ってきたけど、いずれも解決すること無く、すれ違いばかりしていたね。だけど、次の日には貴女から手紙が届き、いつ間にか昨日の事を忘れさせてくれる。貴女の手紙は、幾度、二人の危機を救ったのでしょうか…



今ではメールという文化で、会話も成り立たない時世だけど、初めて貴女に会った時も喧嘩をし、周りからは仲が良いと噂され、お互い顔を赤らめていたのを懐かしく思います。



今思えば、良い思い出です。



何でもない話も楽しく話せたあの頃、貴女の笑顔にどれだけ癒されていたか、今思えば、後悔の念も伺えます。『若かった…』すべてがこの言葉で括られてしまいそうな、他愛の無い思い出も、この手紙を読むと、とても心が癒されていく自分がいます。



20年の年月を経て、今のボクなら貴女を受け止めることが出来たのでしょうが、今はお互い別々の幸せに向かっているわけで…この後悔も一時でしょう。

20年前の貴女へ…



お元気ですか?

ボクはいつも貴女の笑顔で幸せを感じています。すれ違いが多く会話も儘ならないボクですが、初めて会ったあの時から貴女の事を…アイシテマス。

追伸 貴女は今幸せですか…

ボクは幸せです…