幼いころのボクは、恥ずかしがり屋でいつも幼馴染みの貴女の後ろばかり歩いていた。
母親同士仲が良く、近所と言うこともあり、学校から帰ると、ボクはいつも貴女と一緒に裏山の広場へと出掛けていた。
貴女といるととても楽しくて、時間が経つのも忘れていた。母親が心配になり探し回ることもしばしば、捕まっては叱られ、逃げては捕まって…いつも楽しく二人でいたあの頃…小学校・中学校と一緒だったボクたちは、高校は別々の学校へ行くことになった…だからと言って、貴女の家はボクの家の通り道。貴女とは今までと変わらず、顔を合わせていた。
いつまでも続くと思っていた…そう…あの時までは…
高校の卒業式当日…
ボクは、慣れ親しんだ通りをいつものように歩いていると、貴女の家の前で救急車が止まっていた。恐る恐る覗くと、タンカで運ばれる貴女を見つけ、その脇には貴女のお母さんが付き添っていた。ボクは、抑え込む職員の腕を払い退け、救急車へ飛び乗った。
ICU(集中治療室)から出てきた貴女の様子を見たボクは、そっと見送ることしかできなかった。貴女のお母さんはその場で泣き崩れ、昼過ぎに駆け付けたお父さんも、ベッドで寝ている貴女を見るや、茫然と立ち竦んでいた。
「おじさん…おばさん…」何て声をかけてあげれば良いのか、無い頭の中でボクは一生懸命考えたが、何も見つからなかった。
「ヒロくん…」貴女のお父さんは、少し落ち着いた様子で、ゆっくりボクに話してくれた。
『骨髄増殖性疾患』…
慢性の白血病、貴女にとってみれば希有な症状なのだと…
ボクも薄々感じていた…貴女の身体が会うたびに弱くなっていたことを…
その日は家族で付き添うとのことで、ボクは自宅へ戻り、母親に今日の事を説明した。以来、週に一度はお見舞いに行っていたけど、慣れないもので、ドアの前ではいつも心臓が張り裂けそうでした。
治療初期、貴女は笑顔でボクを迎えてくれていたけど、早期治療を勧められ無菌室に移されてからの貴女は、とても寂しい瞳でボクを迎える。時間も限られてしまうので、とても心苦しく感じていた。
阻害薬で治療を続けていた貴女の身体は、いつしか移植が必要となったと聞き、ボクにも出来ることはないのかと、家族に相談したことがあった。
母親は、身内に近い存在であった貴女の事、なにも出来ないでいるボクを見て、骨髄移植適合検査を勧めてくれたけど、そんな旨く適合するものでもないことは分かっていた。
『何故貴女が…』病院から帰ったボクは、いつも一人で泣いていた。
あの卒業式から一年が経ったある日、家族で貴女を支えるため、静養を兼ねて地方へ移った。
それ以来、貴女とは連絡も取れなくなっていたが、五年後のある日、社会人二年目を迎えていたボク宛てに、一通の招待状が実家に送られてきた。
『ヒロくん。元気ですか?昔から、何かあればヒロくんに話していたけど、引っ越しをしてから、何も話していなくてゴメンね。同封した招待状で気付いたと思うけど、ワタシ結婚します。』
ボクの頭の中は真っ白だ…
それからのボクは、心此処に在らず…無気力な生活を送っていた。
三ヶ月後…結婚式当日、貴女のお母さんに誘われ、久しぶりに見る貴女の姿…少しドレスが重くも感じるほっそりとした身体、そして、何よりも車椅子で居る貴女を見て、居た堪れない気持ちになった。
たくさんの拍手で迎えられた貴女は、お父さんと一緒にバージンロードを一歩ずつ…
ドレス姿の貴女を観て心に込み上げてくるものを感じています。
その先で、新郎が今にも泣きそうな顔で貴女を待っていました。
何故ボクが席に座り、貴女の姿を見送っているのか…自然と涙が毀れてきた。
式も終わり、参列者は屋外に出始め、その後を追うようにボクも外へ出た。純白のドレスで飾られた貴女は、多くの参列者と写真撮影を楽しんでいた。
とても幸せそうな貴女を見ていると、ボクは胸が締め付けられそうで、その痛みに堪えるのがやっとだった。
撮影の為ボクが貴女の隣に並ぶと、「私は大丈夫よ…」と独り言のように聞こえた言葉に「えっ…?」と貴女の方へ振り向くと、「ほら、ヒロくん前向いて!」とボクは慌てて前を向いた。
「私は大丈夫だから…ヒロくんも幸せになってね…」
「うん…」
何だか顔を合わさないうちに、貴女はボクよりもずっと大人になっていた。
後日送られてきた封書には、一通の手紙と結婚式の写真が送られてきたが、その写真にボクの笑顔は無かった…
『ヒロくん…』何となく察した貴女からの手紙、恐る恐る読むと今までの想いが綴られていた。
子どもの頃、貴女の悪戯でなぜかボクが貴女のお母さんに怒られた事や中学生の頃のボクとの喧嘩の事…たくさんの想い出が綴られていたが、最後の「いままでありがとう…」で、ボクは確信した。
この手紙から半年後…貴女のお母さんからの電話…
貴女は、みんなの前から姿を消した…
車いすに花束が捧げられた…
貴女は、奇麗な華々に囲まれ、とても亡くなったと思えないくらい艶やかに見えました。
貴女の後ろばかり隠れていたボクは、もう、見ることのできない貴女の姿を切なく、そして寂しく思うばかりです。
多くの参列者の中、貴女の友だちは涙でクシャクシャでした。
貴女の両親から親族と一緒に立ち会ってほしいと、ボクは新郎の隣に並び、貴女の棺に手を差し伸べた。
これで最後なんだね…
数日後、貴女のお母さんから連絡があり、遺品整理を手伝うことになり、夏休みに入ったボクは、初盆を兼ね貴女の家に向かった。
貴女の部屋で整理をしていると、子どもの頃、貴女と一緒に描いた地図を見つけた。
ボクはすぐに裏山の広場の地図だと思い、当時二十年後の二人に宛てたお互いの思いを仕舞っていたのを思い出した。
ボクはすぐに裏山へ向かった…
子どもながら、未来の自分たちへ送った思い…記された目印の地点には、向日葵が大空に向かって伸びていた。ボクはその脇を掘り、小箱を取り上げ、フタを開けた。中には小学生の頃一緒に遊んでいたあの頃の貴女と一緒に取った写真が一枚入っていた。
その写真を懐かしく思い取り上げると、その下には手紙も入っていた。
「二十年後の貴方へ…」と記された手紙。
当時知ることのできなかった、貴女の思いが綴られていた。
『ヒロくんと幸せになりたい…』
子どもの頃であれば歯の浮くような言葉も、今は重く受け止めることが出来る。そして、続きを読み進めていくと、一枚一枚進むたびに貴女の字が奇麗になっていることに気付いた。
貴女は何度か此処へ来ていたのだ…
大人になっていく貴女のボクに対する思いが、次第に変わっていった。
…ボクの幸せを願い、お互い別々の道を歩こうとしていた事を…
最後、貴女のお母さんから連絡を受けた時、すぐに貴女のもとへ向かったけど、もう、話すのが大変な状態でした。
「ありがとう…」
笑顔でボクにかけてくれた貴女からの最期の言葉。
その言葉は、彼に…ではなく、ボクにかけてくれた理由。幼なじみだからこその思いとボクは信じています。
貴女の幸せは、他の誰よりも一番に思ったのはボクだから…
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