葬儀会場へはおじさんが扉を開けてくれた。
自分もしっかりと喪服を着ているのに、
なぜか扉の外に一緒に出ようとはしなかった。
きっと知っていたのだろうと思う。
そこで、出会ってしまうことを・・・。
「食器を磨かねばと思っておりましたのに、間に合わず申し訳ありません」
死神さんの隣、自らの棺がよく見える位置に静かに佇んだユ会長は、
とても穏やかに笑った。
会場ではドクファ兄さんが棺に縋って大泣きをしていた。
そのお陰で視線は全てそちらに注がれていて、
私が、まるで誰かと話しているかのような、
独り言(に見えるはず)を、
言っていても気に留める人はいなかった。
掛ける言葉が見つからず、黙っていたけれど、
ユ会長は深々と私に頭を下げると、気になっていたのであろう食器のことを口にした。
「大丈夫ですよ。私が磨きますから」
私がそう言うと、
「ご心配なく。うちの孫がきっとピカピカに磨いてくれるでしょう」
と、目を細めてとてもとても嬉しそうに笑った。
そして、私の方に向き直ると、
「旦那様のことを、どうぞ宜しくお願い致します」
と言って、深く深く私に頭を下げた。
「生きているうちに、貴女様にお目に掛かれたことは、私の人生の最大の喜びの一つでした」
「私に・・・ですか?」
「旦那様が生を受けられてからの永い永い時間、私の一族は代々旦那様にお仕えして参りました。しかし、旦那様が、トッケビとなられてからこれまで、あのような幸せそうな笑顔を拝見することが出来たのは、私と孫が初めてかと存じます」
「初めて・・・ですか?」
「はい、初めてのことでございます。ですから、私はあの世に行ってご先祖様に自慢しようと思っております」
そして改めて、満足そうに笑った。
「長い時の中で、私は伴侶に巡り合い、子を生し、ドクファと言う可愛い孫にも恵まれました。でも、あの方はただひたすらにご自分に罰をお与えになり続けていたのでございます」
それは、なんとなくだけど私にもわかった。
おじさんは、いつも難しい本を読んで、
独りで食事をして、独りで歩いて。
そして悲しみも痛みも独りで抱えてきたのだろう・・・。私もそう思っていた。
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