[マーキーのレーカー]
2017年、日本の首都の片隅で頭を抱へる男がいた。
エゲレス発祥の投矢競技であるダァツの団体対抗戦を自店で開催するに際し、主食たる料理を二三増やさねばならない。その時点で男の料理のレパァトリィは自らが持ち込み、既に一枚看板として確固たる地位を築ひていた「哀愁のナポリタン」と美味いがその手間の多さの為に発案の余地もなく没した「ピザトォスト」「クロックボゥイ」のみであった。男は思考を巡らせた。
通常営業中と違い、頻繁に繰り返される飲料の注文への対応と平行して迅速な調理が可能な食事、あわよくば加熱し盛り付けるだけの提供も可能な料理とは。

「カリーライス」

本邦に於ける生活に深く根付き、男の三十幾年の人生の中、忌み嫌う者に出会ったことがない数少ない料理。此れは天啓か、否、日本と云ふ国に生を受けた人間として、この結論に至ることは至極必然だったと云へる。
問題はカリーライスの種類である。そして男が選択したのは、

「キーマカリー」

ポォクとビィフをミンチし、絶妙に配合した肉と数種の野菜を使用したハイカラなカリー。これは料理などスパゲッティ以外にはまともにしたことのなかった男の新たな生業に於ける、新たな挑戦であった。
幾度も試作を重ね現在の完成形に辿り着き、その名をよりハイカラに「マーキーのレーカー」とし、現在はライス・スパゲッティのどちらにも対応可能な料理として数ある料理の中でも根強い愛好者の支持を得ている。
なお、完成から六年以上の歳月を経た現在も導入時から調理法が大きく変化していない料理の一つでもある。