沢ガニとの出会いと別れ!
1.沢ガニをクラスで飼おう!
2.理科の授業で動物の絶滅を学ぶ!
3.水槽と自然のどっちが幸せ?
4.沢ガニを自然に帰そう!
5.元気で暮らせよ!(沢ガニへ)
6.パクッ!沢ガニとの永遠の別れ!
1.沢ガニをクラスで飼おう!
カニを見ると必ず思い出す子どもがいます。
その子どもは、ある学校で担任をした中学1年生の鹿野くん(仮名)です。
徐々に日差しも強くなってきた、春の終わり頃の月曜日。鹿野くんが私の所にきてこう言いました。
「先生!昨日、近くの川で沢ガニとってきたよ!」
「クラスで飼っていい?!」
せっかく、鹿野くんが捕まえてきた沢ガニです。私はクラスで沢ガニを飼うことを了承し、鹿野くんと一緒に理科の先生に水槽を借りにいきました。
私と鹿野くんが水槽に水を入れていると、クラスの男子が集まってきてこう言います。
「先生!何してるの?」
「カニをクラスで飼うの?」
「石とか砂利を入れた方がいいんじゃない?」
「葉っぱも入れた方がいいよ!」
「じゃあ、俺とってくるよ!」
鹿野くんとクラスの男子数人でつくった沢ガニの水槽が完成しました。クラスの男子は鹿野くんに早く沢ガニを水槽に入れるように促します。
仲間に促され鹿野くんはとってきた沢ガニを水槽の中にいれます。すると一緒に水槽を作った仲間たちが拍手をしました。
その拍手の真ん中にいた鹿野くんは、照れながらも嬉しそうにして頭をかいていました。
2.理科の授業で動物の絶滅を学ぶ!
沢ガニを飼い初めて1ヶ月が立ちました。沢ガニの世話は鹿野くんが中心となって行っていました。
エサをやるのはもちろん、水槽の掃除も鹿野くんが率先して行っていたため、沢ガニは常に住みやすい環境で元気に過ごしていました。
そんなある日、理科の授業で「マンモスが絶滅した理由」について勉強したそうです。そこで、子どもたちは、マンモスの絶滅の理由をこのように教わったそうです。
「氷河期に入り食料がなくなって絶滅した。」
「ヒトの狩猟の対象になったため絶滅した。」
「伝染病にかかって絶滅した。」など
3.水槽と自然のどっちが幸せ?
翌日、クラスの女の子が朝の会で私にこう言いました。
「先生!」
「沢ガニは自然に帰してあげたほうがいいと思います!」
「あんな小さな水槽ではかわいそうです。」
「絶滅することはないと思いますが・・・・。」
すると、何人かの女の子がこう言いました。
「学級会で話をしあったほうがいいと思います。」
「学級会で話し合う時間を下さい!」
私が鹿野くんをみると、鹿野くんは悲しそうな顔をしています。
もちろん、女子もクラスの一員です。「学級会で話し合いたい!」という意見がある以上、話し合いを行わなければなりません。
そこで私は、その日の5時間目の私の授業を翌日の学級活動と入れ替え、話し合いを行う事にしました。
4.沢ガニを自然に帰そう!
学級会では、いろいろな意見が出ました。
「沢ガニは自然に帰してあげた方がいい!」
「それならイヌやネコを飼っている人もイヌやネコを自然に帰すべきだ!」
「イヌやネコは自然で暮らしたことがないから飼われている方が幸せだ!」
「沢ガニだったエサがもらえるから今の方が幸せだ!」
「元々、自然にいたのだからそっちのほうが幸せだ!」
「そもそも沢ガニはどっちが幸せなんて考えてないのでは?」
(おっ、鋭い突っ込みだ!)
「そう言う考えだから、絶滅する動物がいるんだ!」など
30分ほど、白熱した議論が続きましたが、先日の理科の授業の影響が強く、「沢ガニを自然に帰す」派の意見が多いように感じました。
結果、最終的に「沢ガニは自然に帰そう!」ということになりました。
鹿野くんもみんなの意見を聞いて、沢ガニは自然に帰したほうがいいと思ったようで、話し合いの最中も、話し合いが終わったあとも悲しい顔はしていませんでした。
5.元気で暮らせよ!(沢ガニへ)
翌日の放課後、沢ガニを学校のすぐ近くにある池に帰すことになりました。
池に行くのは、私と鹿野くん、そして、沢ガニの世話をしていた男子たちです。
鹿野くんを含め男子たちは、口々にこう言っていました。
「やっぱり自然の方が沢ガニも喜ぶよね!」
「ゴメンネ!捕まえたりして!」
「これから元気で暮らせよ!」
とても純粋な子どもたちです。私は鹿野くんたちのこの言葉をきいてこう思っていました。
『クラスで話し合いをして良かったな!』
『命の大切さを少しでも感じてくれたのかな?』
『これで良かったんだ!』
6.パクッ!沢ガニとの永遠の別れ!
池に着きました。
鹿野くんたちは、沢ガニに声をかけます。
「ゴメンネ!」
「元気でね!」
「さあ自然に帰りな!」
「ばいばい!」
鹿野くんが、水槽を傾け沢ガニを池に帰しました。すると、沢ガニは池の中央に向かって歩き出しました。
鹿野くんを含め男の子たちが手を振っていると、思わぬ事態が起こりました。
一匹の大きな鯉が泳いで来たのです。そして、鹿野くんが池に帰したばかりの沢ガニたちの近くで口を大きく開けました。
「パクッ!パクッ!パクッ!」
「・・・・・・・・・・・」
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