イメージの言語的側面が比喩である 2 | 東京大学村上文緒愛好会

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一つ一つの言葉にこめられた作者の思いがわかったとき、古典は本当に面白いと思った。古典を楽しみたい。その思いが古い言葉の意味を求めるきっかけにもなった。

比喩こそが言葉を成り立たせている
いかに比喩がわれわれの言語表現を成り立たせているのか。その例として以下の二つの文を見てみよう。一つ目の文はカントの『純粋理性批判』(カント 1961)の一部分である。

現象において感覚と対応するところのものを、私は現象の資料 (Materie)と名づける。これに反して、現象の多様な内容を或る関係において整理するところのものは、現象の形式 (Form)と呼ばれる。感覚を整理し、またそれを或る形式に納めることのできるものは、それ自身感覚ではあり得ない。それだから一切の現象の資料は、なるほど我々にア・ポステリオリにのみ与えられはするが、しかし現象の形式は、感覚を受け入れるものとして、すでに我々の心のうちにア・プリオリに具わっていなければならない、従ってまたこの形式は、一切の感覚から分離して考察せられねばならない。

何をいっているのかよく分からないという読者も多いと思うが、文章についてはここで深く考える必要はない。さて、この文で使われている比喩を抜きだしてみると、以下のようになる。
「現象において」:空間の比喩 (容器)
「対応する」:空間の比喩 (方向)
「もの」:空間の比喩 (存在)
「多様な内容」:空間の比喩 (容器)
「整理する」:擬人の比喩
「もの」:空間の比喩 (存在)
「現象の形式」:空間の比喩 (比喩)
「感覚を整理」:擬人の比喩
「形式に納める」:空間の比喩 (容器)
「もの」:空間の比喩 (存在)
「与えられ」:擬人の比喩
「現象の形式」:擬人の比喩
「現象の形式」:空間の比喩 (比喩)
「受けいれる」:擬人の比喩
「心のうちに」:空間の比喩 (比喩)
「具わっている」:擬人の比喩
「この形式」:空間の比喩 (容器)
「分離して」:空間の比喩 (隣接)

空間の比喩の後ろの (容器)等は、空間の比喩の分類名である。
空間の比喩┳容器の比喩(心の中で…)
     ┣方向の比喩(地位が上がる)
     ┣運動の比喩(研究が進む)
     ┣存在の比喩(海外に行ったことがある)
上の図は『空間のレトリック』(瀬戸 1995b) 掲載のものを基に作成した。
カントの文は訳文だが、日本人の文章も引用しておこう。次の文は『メタファー思考』(瀬戸 1995a)に紹介されている『人工知能と人間』(長尾 1992)の一部分である。

人工知能は人間の知的活動がどのようなものであるかをコンピュータプログラムで模擬的に実現することによって、その内容を明らかにしようとするものである。これは公理論的立場、経験主義的立場のいずれにも共通しており、両者ともにこれを実現するのに記号を基礎におく。これは記号論的立場の記号という意味も含まれてはいるが、もっと単純にアナログに対するディジタルという意味合いが強い。
この文中で使われている比喩は、次の通りである。
「もの」:空間の比喩 (存在)
「内容」:空間の比喩 (容器)
「明らか」:視覚の比喩
「もの」:空間の比喩 (存在)
「立場」:空間の比喩 (方向)
「立場」:空間の比喩 (方向)
「共通」:空間の比喩 (運動)
「両者」:擬人の比喩
「基礎」:建築の比喩
「含まれ」:空間の比喩 (容器)
「対する」:空間の比喩 (方向)
「強い」:力の比喩
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