第23回 ドン・キホーテが持つ槍

 

末松理事長室に置かれていたドン・キホーテ像をご存じだろうか。

 

(偲ぶ会でも投影されたドン・キホーテ像を持つ早石先生。

naturedigestからお借りした感謝申し上げる。)

 

京都大学名誉教授の早石修先生がお持ちになっていたものだ。早石先生は常々「私はドン・キホーテみたいなものだ」とおっしゃっていたという。自分の信念に従って猪突猛進する、と。そうした姿勢で生化学分野において偉大な功績を挙げられた基礎研究者だった。また多くの優れた弟子を育てたことでも知られる。慶応大学の石村巽教授もその一人だ。石村教授は、スペイン出張の際にこのドン・キホーテ像に出会い、早石先生に贈ったのだ。早石先生のために創設された大阪バイオサイエンス研究所でも、所長室また理事長室を通じ、ずっと手元において大切にされていた。

 

2015年3月に研究所が解散する際、このドン・キホーテ像は行く先をまさに発足しようとしていたAMEDの理事長室に選んだ。ある人が、あえて困難な船出にあって、信念をもって猪突猛進する役目を担おうとしていた末松理事長にこそ相応しい、と。

 

のちに末松理事長を訪れた石村教授は、見覚えのあるドン・キホーテ像が置かれているのを見て目を丸くしたという。末松理事長は慶応大学における石村教授の弟子筋にあたる。弟子が師匠に贈ったドン・キホーテ像がその孫弟子に引き継がれたことになる。不思議である。

 

理事長人事が決した。望む結果にならなかったことは極めて残念だ。無念だ。自分の無力さを痛感する。

 

末松理事長の続投が実現しないことが決まり、第一幕は閉じられようとしている。しかしあくまで第一幕である。すぐに第二幕の幕が上がる。

 

ドン・キホーテ像の長く鋭い槍が目を引く。折れた時のためか、予備がもう1本ある。ドン・キホーテの2本の槍。第二幕、まだ折れていない2本の槍は何を刺すのか。

 

 

日本の医療研究開発が歪められている。