第8回 AMED審議会で突き付けられた「信頼」への問い 

 

 

日経バイオテクの有料会員記事、「「大坪氏問題」でAMED末松理事長が怒りの暴露」が2月4日から3回に分けて掲載された。今回の本ブログ記事、また有料記事のパクリかと思われたかもしれない。残念ながら(?)そうではない。日経バイオテクの記事も読み応えがあるが、私としては書きたいことが取り上げられていないので、あえて長文の記事をアップすることにした。日経バイオテク記事との比較、評価は読者にお任せしよう。

 

今回は、会議のやりとりをそのまま掲載している部分が多く、非常に長文となっていることを予めご承知おきいただきたい。しかし逆に生々しさ、息遣いを感じ取っていただけることは間違いない。

 

令和2年の仕事始めの週、1月9日に開催された第10回日本医療研究開発機構審議会でのやりとりが激しい。

 

その前に、略してAMED審議会と呼ばれるこの会議の位置づけを確認しておく。この審議会は、独立行政法人通則法に基づいて内閣府に設置され、AMEDの法人としての評価や中長期目標に関して審議することを役割としている。

 

今回は、AMEDの第2期中長期計画期間が令和2年度からスタートするにあたり、政府が示す中長期目標に関する議論が中心であった。AMEDの中長期目標は、当然、上位政策である健康・医療戦略や医療分野研究開発推進計画に基づくものであるため、議論はまず次期戦略と次期推進計画の案の説明から始まった。

 

事務局が両案の報告を終えた直後、その発言はなされた。有識者委員である瀧澤美奈子委員(科学ジャーナリスト)が真っ先に挙手したのだ。議事録で再現的にみてみよう。

 

◆瀧澤委員 今日、このような形で通常のお話、議題が始まるというのを正直私は思っておりませんでしたので少々驚いております。というのは、12月に2回にわたって報道された『週刊文春』の内容に関して非常に懸念を抱いております。個人的にプライベートなところでどういう関係があるというのを私は興味がございませんが、今御紹介いただきました健康・医療戦略の推進体制、1ページ目ですけれども、これが本当にこのような形になっているのかどうかということについて、しっかりとした説明をいただきたいと思います。『週刊文春』の内容によりますと、文科省の公開の有識者会議で評価され、継続が決まったiPSのストック事業が一部の官僚の考えでストップされそうになったと、それが政治的にもとに戻されたわけですけれども、こんな手続が許されているなら、今日のこのような会議も全く無意味ではないかと思います。それから、この記事は2回にわたっていろいろと書かれておりますけれども、総じて、官邸主導の御旗を振りかざして予算や人事を握って一部の人間が行政をゆがめているのではないかという疑いが国民の間で今、広がっております。その説明責任をしっかり果たしていただかないと、この会議自体も全く無駄なものになると思います。個人的には、私、これを自分で取材しているわけではございませんで、この週刊文春の内容を読んで知っていることが全てでございますので、実はこの記事を読んだときに本当に我が目を疑いました。大坪さんについては今まで個人的にもお話をさせていただいておりまして、まことに信じられないというのが率直なところですので、このままですと、一方的に大坪さんが悪者になっていると思うのですね。実際のところは本当にどうなのかというのを国民の皆さん、非常に関心を持っておられると思いますので、ぜひその点を御説明いただきたいと思います。以上です。

 

この発言に対して、対面に座っていた大坪次長(厚労省審議官)は顔色一つ変えることなく、しかし一言も発することはなかった。

 

◆田辺会長 基本的にはこれは報告事項でございますので、かつ、こちらのもともとのほうの戦略、それから2期案、研究開発推進計画というのを受けて我々が議論するという組み立てになっておりますので、余り議論には適さないなとは思うのでありますが、ただ、我々がこれを受けてそれに対応する計画をつくるというときに、余り疑義があってそれを行うということもよろしくないかと思いますので、この体制、それから、その中でどういう議論があったということを、必要最小限かと思いますけれども、御説明いただけるようでしたらどうぞということでございます。特に申し上げることがないというのでしたら、それはそれで結構でございます。では、よろしくお願いします。

 

田辺会長の議事進行の長々とした発言はわかりにくいが、要は脱線しないでほしい、脱線するにしても最小限にしてほしい、ということであろう。徹頭徹尾、委員側ではなく、事務局側に立って進行をする田辺会長。さすがに無視はできずに戦略室に発言をうながす。もちろん大坪氏は答えない。答えられないのだ。盟友の渡辺次長が代わりにマイクのスイッチを入れる。

 

◆渡辺次長 今、会長御指摘のとおりでございまして、本日この場といたしましては、AMEDの審議会として、AMEDの中期目標について御議論いただく場でございますから、その議事次第の中で御議論いただきたいということでございますけれども、その大前提として、委員というよりは多分、科学ジャーナリストとしての瀧澤さんのお立場かと思いますけれども、疑義、御意見があるということについては承りましたので、必要な場で御説明を差し上げたいと思いますけれども、端的に申し上げれば、この推進体制の中で必要な手続を行っているところですし、率直に申し上げて、予算のやりとりは一々つまびらかにしているところではございませんけれども、最終的に政治の介入ということではなく、予算は当初、文科省が要求しているとおりに政府原案、まだ国会が始まっていませんので原案の状況ですけれども、そのようになっております。ただ、その中で一度やると決まったからずっとやればいいということではなくて、私どもとして予算のヒアリングにおいても必要な進捗、それから、どういうことになっているのか、無駄がないかということも含めてしっかりお聞きしているのは、職務として当然のことをしているということだけでございます。ということで、すみませんが、会長、議事のほうをよろしくお願いいたします。

 

◆田辺会長 よろしゅうございますか。いろいろジャーナリスト的な不満のほうはわかりますけれども、この審議会としての役割。

 

ジャーナリスト的な不満とは何であろうか。意味不明である。瀧澤委員は、仕事をしていく上で大前提となる基本的な信頼関係という普遍的な事柄について問うたのだ。言い換えれば、「あなたを信頼して良いのでしょうか」という根本的な問いだ。それを「不満」と一蹴する田辺会長。(田辺会長は信頼関係はなくても仕事はできるのだろうか。)瀧澤委員は引かない。

 

◆瀧澤委員 恐らく私だけでなく、ここにいらっしゃる先生方も同じような思いを抱いているのではないかなと。私たちがここに来ているのは、AMEDがよくなるように、また、健康・医療戦略推進体制がよくなるようにということを願って、皆さん忙しい中で時間を割いて来ていると思いますので、基本的には応援団なのですね。ですから、そういう気持ちを酌んでいただいて、応援する気持ちが逆方向に行かないようにしっかりと説明をしていただければなと思います。よろしくお願いいたします。

 

◆田辺会長 ありがとうございました。この点はここでとどめさせていただきたいと存じます。次に、議事の次のことで、第1期の中長期目標及び評価軸の変更につきまして、事務局のほうから説明をお願いいたします。では、よろしくお願いいたします。

 

田辺会長は最初の波乱をなんとか乗り切ったように見えた。議事は進んでいく。各委員が発言・質問し、事務局の考え方を聴取していく。その途中、委員の発言に答える形で、AMEDの末松理事長が挙手する。

 

◆田辺会長 では、末松理事長、お願いいたします。

◆末松理事長 (楠岡委員から今、御質問のあった点ですけれども、)事実を申し上げたいと思っていることがございまして、昨年の7月以降、実質的にはそれより前から始まっていたかもしれませんけれども、大坪氏が次長になられてから、我々のオートノミーは完全に消失しております。それはどういうことかといいますと、我々は文科、厚労、経産、それから今は総務省とございますけれども、予算のマネジメントとか一つ一つの事業の運営のやり方に関して、健康・医療戦略室は基本的にマイクロマネジメントをやられてきたということであります。マクロ的な戦略の策定とかにはほとんど、実際に今日の健康・医療戦略等を見ていただくとわかるのですが、健康・医療というのは領域が大きいので、具体的に健康・医療戦略室がどういうやり方をしてきたか。先ほど冒頭、瀧澤委員から非常に重要な御指摘がありましたけれども、事はiPS細胞ストック事業の問題だけではございません。現在、まだオンゴーイングのところもあるかと思うのですけれども、全ゲノム解析のプロジェクトというのがございまして、AMEDでマネジメントさせていただいている理事長執行型の調整費というのがございますが、令和元年度の前半戦の調整費、これは大幅に削られまして、この削られた調整費がなぜ削られたかというのは置いておきまして、それを全部、トップダウン型の調整費というところに組み入れております。これを後半戦の調整費の予算として執行する予定でおります。細かい事情は御説明しませんけれども、今このトップダウン調整費のほうはストップ状態になっております。何が問題かといいますと、健康・医療戦略室のイニシアチブのおかげでAMED発足してから最初の3年間あるいは3年半は非常に順調な運営ができたというふうに自分自身でも思いがございますけれども、各省の予算のマネジメントに関する相談等は全部健康・医療戦略室を通してやるようにということと、担当大臣とか政治家の方々とコンタクトをとるなということを大坪次長から言われております。その証拠も残っております。それから、これは情報の一元化という意味では官僚的にはよいことなのかもしれませんけれども、結果何がおきたかといいますと、iPSのストック事業でも、それからゲノム関連のトップダウン型調整費、80億ぐらいございます。そのうちのかなりの部分はがんゲノムあるいは認知症、こういったところのゲノム解析に使われる予定でございます。私がここで明確に明言しておきたいことは、これらのお金は、今のところ我々の意思は全く入っておりません。トップダウン型ですので、健康・医療戦略室が決めております。しかし、これがいざ執行されるということになりますと、我々に執行責任が当然及ぶわけです。健康・医療戦略室のスタンスというのは、自分たちが決定をするけれども、執行によって何か問題が起きたときはAMEDが全部責任をとるのだということを当時の大坪次長はおっしゃっております。そのような状況下で、令和元年度の後半戦の調整費がどういう運用の仕方をされたかということを次に申し上げますと、その80億前後のお金がですね。

 

◆田辺会長 まず第1期のこの評価軸の変更についての議論であります。恐らく第2期のところは第1期の反省を込めてどうするかというのを議論してまいりたいと思いますので、その折にお願いできればと思います。

 

◆末松理事長 必ず発言をさせていただきますので、よろしくお願いします。非常に重要なことですので。

 

末松理事長は、戦略室のマネジメント、そしてトップダウン型調整費の問題を極めてストレートに提起したのだ。調整費の議論はまさに今年度、第1期の最終年度に起きている問題であって、この議題でこそ議論するべき案件であるが、田辺会長は波静かに、とにかく議論をまとめよう、委員の了承を取り付けようと必死である。

 

続いて、AMEDの第2期の中長期目標案及び評価軸が議論された。各委員から発言・質問が出る。事務局が答える。何回往復しただろうか。再び末松理事長が手を挙げる。田辺会長は内心穏やかでないが指名せざるを得ない。

 

◆田辺会長 では、末松理事長、お願いいたします。

◆末松理事長 1期目の反省も込めてということなのですけれども、AMED審議会の委員の先生方にどうしても理解しておいていただきたいのは、健康・医療戦略室は我々に対するガバナンスを発揮しているユニットであることはよく御存じだと思うのですけれども、これは具体的な例として、今後、次期に向けて同じようなことが起こるととんでもないことになるので、どうしてもここで申し上げておきたかったわけなのですが、先ほどのトップダウンの決定というのがどういう意味を持つのかという具体的なわかりやすい例をお話しいたします。もう繰り返しになりますので省略しますけれども、調整費というのがございます。調整費には2つのメカニズムがあって、理事長裁量経費と呼ばれる経費とトップダウン型の経費というのがございます。トップダウン型の調整費というのは感染症の突然の対応とか、それから喫緊の問題として国としてできるだけ早く進めなければいけないプロジェクトがあって、それを政府主導で行っていく。そういうときに調整費を使うというふうに明確に文章化されております。今回、その後半戦の調整費、先ほどちょっと申し上げた80数億のお金、多くはゲノム関連の調整費として使われますけれども、我々は予算が執行された後、課題の管理の責任を担うことになっております。現時点までは我々はディスカッションには一切参加しておりません。これはトップダウンですので、そのような仕組みになっています。このような仕組みはルールの範囲内ではあるけれども、AMEDから見ても極めて不透明な決定プロセスで中身が決まっております。私、熟読したわけではありませんけれども、厚労省は全ゲノム解析実行計画というのをたしか先月策定していただいております。今回のトップダウン型調整費の大半がそこにつぎ込まれて、先行的に進めるということでゲノム医療に道を開くという意味では非常に重要なものというふうに理解をしております。しかしながら、健康・医療戦略室の意思決定、トップダウン型の意思決定のプロセスというのは、明確に申し上げますと、大坪次長、現在は非常勤のAMED担当室長ということですけれども、かつ厚労大臣の審議官をやられております。そのような状況下で、研究者コミュニティーから見ると、研究費を応募した側と審査した側が同じになっているわけです。利益相反状態です。この利益相反状態で恣意的な省益誘導が行われたというふうに言われても反論のしようがないと思います。こういったことは、例えばピアレビューと透明性の担保ということが研究費を決める上で一番重要な2つの柱なわけですけれども、iPSのストック事業しかり、それから、これから動くか動かないか、まだ少し時間がかかるけれども、ゲノムの医療の資金、国民の税金です。それを頭数をそろえてゲノムを調べたり、あるいは調整費ですので、どんなに延長しても令和3年3月、つまりあと1年ちょっとしか執行できないお金を80数億一気に使わなければいけない。こういう無理なことを利益相反状態で決定されたということは、一個でもそういう例があると、これからiPS、ゲノム、ほかの科学技術の領域にも大きな悪影響を及ぼすというふうに懸念しております。こういうことはオープンなところでしっかり議論がされるべきであって、それでAMED審議会で1期目の教訓として、事実として申し上げているということでございます。そういったことが二度と起きないようにしていただきたいというのが私の意見でございます。

 

再び、調整費を具体例に、意思決定プロセスの透明性確保とピアレビューの重要性の指摘だ。やはり大坪次長は答えない。盟友、渡辺次長が答える。

 

◆渡辺次長 本日、繰り返しますが、AMEDの中長期目標を御議論いただく場でございますので、余り本論に外れたことは申し上げたくないのですが、随分事実に関する誤認が含まれてございますので、簡単に御説明申し上げます。トップダウン型経費というのはそもそも決められるカテゴリーが決まっておりますが、調整費の配分に係る考え方は健康医療戦略本部、これは全閣僚が入っている場でございますが、そこの決定に基づいて、内閣府にもともとSIPだとかお聞き及びになったことがあるかもしれませんけれども、そこに含まれている予算の中の一部を175億円分なのですが移しかえ、決められた課題を関係省庁から補助金として再度AMEDに交付して、AMEDが補助金を一体的に執行するということでございます。その推進本部によります機動的な予算配分、これがトップダウン型経費なのですけれども、本部長または副本部長、これは総理ですとか担当大臣になるわけなのですが、配分の案を策定して、その本部に諮って決めるということで、手続においては、では役人しか入っていないのではないかとか、それこそ利益相反の疑いもあるということも御懸念があろうかと思いますが、それに関してはゲノム協議会を10月23日と12月24日、12月24日は報告になりますので10月23日に決めて皆様にお諮りして、議論していただいております。そのゲノム医療協議会の構成員の中には、AMEDのプログラムディレクターも入っております。これは委員として入っております。それから、御専門の方としては、ゲノム医療協議会ですから、ゲノム医療のゲノムサイエンス的な面、ライフサイエンス的な面、データサイエンス的な面、それから倫理的な面、それぞれの面から御参画いただいている委員と関係省庁、そして参与といたしまして、健康・医療戦略の参与は何名かいらっしゃるのですけれども、自治医科大の永井先生、がんセンターの中釜理事長も参与としてのお立場で、いかなる解析を、あるいはどういうトップダウン経費の使い方をするのが適切かというところで議論していただいた上で、室長は和泉補佐官ですね。室長を通して最終的に健康・医療推進戦略本部で決定しているものでございます。そして、その過程におきましては、私どもとしても専門家の方々の御意見をお伺いしているところでございますので、最終段階なり執行の段階になってAMEDに何かを押しつけるといったようなことは全くございませんし、提案の段階でも各省から御提案をいただいておりますということですので、すみませんが、多分そのあたりのところを詳細に御承知ではなくて御発言いただいたものだと思いますが、非常に簡単に申し上げましたので、少しややこしいところもございますけれども、ちょっと別なお金の流れをしているものでございますが、手続に沿って進めさせていただいておりますということを御説明申し上げます。返す返すも余り時間もなくなってまいりましたので、申し上げたいのが、AMEDの中期目標というのは、ガバナンスの中身をどうしていただくという御意見はもちろん承りますけれども、まずは目標の適切性について決めていただくのが本日の場でございますので、御審議のほどよろしくお願いいたします。

 

長々と説明して時間を取っておきながら、「余り時間もなくなってまいりましたので」とは白々しいが、渡辺次長が無意識にか、重要な証言をした形だ。「室長である和泉補佐官を通して」「最終的に健康・医療推進戦略本部で決定している」と。語るに落ちたとしか言いようがない。言わなくてもよいのに、わざわざ和泉補佐官を引き合いに出して、不透明な意思決定は補佐官が決めているから、ということである。間違った権威主義が蔓延っていることを明確に証言した。なお、いろいろな専門家の意見を聞いている、合意形成を図っているという渡辺次長の説明については、この後強弁であると指弾される。

 

瀧澤委員が割って入る。

 

◆瀧澤委員 目標の中身も当然大事なのですけれども、その基礎としてよって立つところはガバナンスだと思いますので、そこの議論は避けて通れないところかと思います。私、今御説明いただいた内容を全て理解したというふうに自分では感じておらないのですけれども、ゲノム医療協議会という委員会の題名からしまして、今の御説明でゲノムということで絞られているのかなと感じました。ですので、先ほどの理事長の御発言の内容で、ゲノムというのが最初から決まっていたというようなことは、それに沿っているのかなというふうに客観的な視点では感じたところです。私が誤解している点もあるかもしれませんけれども、どちらにせよ、AMEDと健康・医療戦略室が一体となって同じ方向を向いて国民のために仕えていただかなければ困りますので、特に健康・医療戦略室のほうが予算執行側なわけですから、懇切丁寧にコミュニケーションを図って齟齬がないようにしていただかないと、皆さんうまくやろうと思っているのに無駄なところに精力がそがれてしまって、うまくいくものもいかなくなるということですので、戦略室のほうが懇切丁寧に御説明いただくことが大事ではないかなと思います。

 

◆田辺会長 ありがとうございました。議題の本体はこの中期目標でございますので、恐らく中期目標を受けて今度、AMEDさんのほうで中期計画を立てることになるのだろうと思います。ただ、ありていに申し上げて、協調と緊張関係という2つの側面と、もう一つ適切な分業という観点があって、それがうまくいかないと全体としてうまくいかないという側面がありますので、各いろいろ思うところはあろうかと思いますけれども、第2期の中期目標を受けての中期計画というものがよりよいものになるような知恵の出し方、コミュニケーションのとり方、役割分担の仕方等、ぜひともきちんとお考えいただければと思います。

 

議論を矮小化して収束させようとする田辺会長。瀧澤委員は、戦略室の司令塔としての仕事のやり方という重要な指摘をしているが、事務局に答えさせようともしない。もっとも戦略室から明確な答えがあるとも思えないが。

末松理事長がさらに手を挙げる。

 

◆末松理事長 渡辺さんから御説明がありましたけれども、私が大変驚愕しているのは、それだけの知識人とゲノムの専門家が集まりながら、非常に各論的なことで恐縮ですけれども、戦略室から提案されて厚労省で動かすという中にIRBがどのぐらい時間がかかるのか、そして残りの1年ちょっとで本当に終わるのか、アウトカムが5年後、6年後にならないとわからないプロジェクトがあるのはなぜなのか。そういったことは健康・医療戦略室から我々が調整費の提案をしたときに個々に御指摘いただいて、その範囲で今までやってきたものが、トップダウンになりますと何でもオーケーになるわけですね。そういう各論的なところをなぜ今ここで申し上げているかというと、不利益を得るのは患者さんですから、そこに引っかかる以上、AMEDは安易にトップダウンだからといってそのとおりのことを動かすということをやってはいけない組織だというふうに私は思っております。それに対するお答えはもう要らないのですけれども、それでこういうふうに申し上げているということでございます。

 

AMED担当室長でもある大坪次長がようやく口を開いた。しかし、指摘されたことには一切答えず、出席者の誰も要請も期待もしていない予算に関する事実関係を「補足」と称して長々と述べる。(その発言は掲載に値しないので省略するが、どれほど意味がないかに関心があれば内閣府HPの議事録で確認されたら良い。)打ち切りたい議論を時間切れで終息させたい時に役人がよく使う手である。そして予定の終了時間が来た。

 

◆田辺会長 ありがとうございました。ほかに御意見等ございますでしょうか。よろしゅうございますか。では、どうもありがとうございました。AMEDの第2期中期目標に関する緊張感あふれる建設的な御議論をどうもありがとうございました。事務局のほうでは、本日いただいた御意見を踏まえて、いろいろな重要な指摘があったと私は考えておりますので、その点の検討をお願いしたいと存じます。

 

田辺会長は、会議を締めくくるにあたり「緊張感あふれる建設的な議論」と述べた。建設的かどうかは意見が分かれるかもしれないが、緊張感があふれたのは事実である。しかし「緊張感あふれる議論」で終わらせては問題は解決しない。「いろいろな重要な指摘」について事務局には検討の指示がされた形だ。どう検討されるかしっかり見極めねばならない。

 

末松理事長は、トップダウン型調整費を具体例として、意思決定のプロセスの不透明さやその内容が抱える問題について明確に指摘した。この点は自民党内でも問題になり、現時点で執行がストップされているのは、読者もご存じのとおりである。

 

AMED審議会は、令和2年の冒頭のタイミングで、日本の医療研究開発において解決すべき課題を浮き彫りにし、今年の行方を示唆したといえよう。全体の議論の詳細は、間もなく内閣府HPに掲載されるであろう議事録で確認できる。

https://www8.cao.go.jp/iryou/council/index.html

 

2月13日号の週刊文春では、和泉補佐官と大坪次長が海外出張を私物化していた新たな疑惑が報じられた。次回AMED審議会では、委員から指摘される前に、事務局から説明するべきだ。もっとも本来、信頼に重きを置くのであれば、会議を開く以前に、こうした報道された事案について、きちんと委員にも、国民にも説明するべきである。しかし、説明できないし、説明しようともしないであろう。そのこと自体、報道が事実であることの何よりの証明である。

 

日本の医療研究開発が歪められている。