「フン、家柄が何さ、夫を一番幸せにしたのはこの私よ」

あの世でこう申しているのは、ドイツの文豪ゲーテの妻クリスティアーネであります。上流階級の金持ちの家に生まれたゲーテは、若い頃から詩人、作家として名を馳せ、華麗な恋愛もいっぱいしましたが、生涯に妻と呼べる女性はクリスティアーネただ一人。彼女は造花工場で働いていた女工出身。それゆえ周囲からは「頭空っぽ」「ベッドの豚」「家政婦でしょ」などとさんざんのいわれ方をしましたが、ゲーテがゲーテたり得たのは「彼女なくして考えられない」ほど大きな存在であったと思われます。

ゲーテの妻クリスティアーネ。


クリスティアーネに巡りあうちょっと前のゲーテ。



弟の就職頼みにゆき、その日のうちにゲーテの内妻に

ゲーテもやるもんですね。散歩の途次、自分に近づいてきた一人の娘。要件は弟の就職依頼だったのですが、その日のうちに2人はわりない仲に。この時ゲーテ38歳独身、クリスティアーネは23歳。むろん弟の就職口は見つかったそうです。「あのゲーテに内妻が……」。この話は大きなスキャンダルとなり、周辺からは非難轟々、「ゲーテともあろう人がなんであんな女と……私たちは絶対に認めませんからね」。これにはゲーテも閉口、婚姻届けは出さず、今で言う事実婚にとどめたのでした。だが、思わぬ方角から強力な援軍が現れます。


ゲーテの恋愛相手の一人シャルロッテ


「よくぞ息子の嫁に……あなたはゲーテ家の宝ものよ」

それはゲーテの母親でした。ゲーテは彼女との間に息子が一人できた時点で、故郷の母親カテリーナに「僕の嫁と一人息子です」と紹介する。一目見て気に入った母親は、彼女を「我が家の宝もの」と褒めそやし、息子には「絶対手放しちゃダメよ。大切にしなさい」と忠告。ゲーテの文学的才能を開花させた母親の「人を見る目」の確かさを感じさせます。天真爛漫でよく笑い、料理の腕は抜群、そのうえ夫を魅了してやまない性格と肉体の持ち主とくれば、ほとんど「理想の妻」と言っていい。後にゲーテは婚姻届を出し、母親を大いに喜ばせます。

お札になるほどすごい人なんですね。ゲーテって人は。



身内を味方につけるのが「妻の座」にとって最高の武器

夫とうまくやれれば、夫の身内なんかどうでもいい……逆ですね。夫より身内を大切にするべき。クリスティアーネが生涯「妻の座」を守り通せたのは、それができたから。ゲーテは一国の宰相にまでなりますが、家庭では良き夫として、妻子との団欒を好んだ。「王様だろうと、百姓だろうと、自分の家庭で平和を見出す者が、いちばん幸せな人間である」。この言葉はゲーテの心からの実感でしょう。さて、今日も元気な悪妻の皆さん、身内を大事にしましょう。夫なんかどうだっていい。ターゲットは夫の両親、きょうだい、親戚の中にいますよ。

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