【あの日、飲み込んだ涙が
何十年も経って流れ出した】


ずっと、
涙が止まらない日があった。

気づきが降りてくるたびに。

歩きながら。

電車の中で。

スタバで。

夜の帰り道で。

これでもか、
これでもかというほど、

身体の奥から、
涙が溢れてきた。

私はずっと、
不思議だった。

どうしてこんなに、
涙が出るんだろう。

もう終わったことのはずなのに。

もう大人になったのに。

でも今なら、
少し分かる気がする。

あの涙は、
“今”の涙だけじゃなかった。

小さな頃。

父の機嫌。

冷たいリビング。

空気が一瞬で変わる、
あの0.2秒。

身体が先に、
危険を感じる。

息を潜める。

音を立てない。

空気を読む。

嫌われないように。

ここに居られるように。

言葉にはならなかったけれど、

幼い私は、
こう感じていたのかもしれない。

「このままの私では、
愛されない」

と。

本当は、

「離れたくない」

「ここにいたい」

「行かないで」

そう言って泣きたかった。

抱きつきたかった。

お願いだから、
そばにいてほしかった。

でも、

泣いたら、
もっと嫌われる気がした。

泣いたら、
ここに居られなくなる気がした。

だから私は、
涙を飲み込んだ。

感じることを止めた。

そして、

もの分かりのいい私になった。

空気を読む私になった。

ちゃんとしている私になった。

迷惑をかけない私になった。

そうやって、
役割を生きることで、

私は、
ここに居ようとしていた。

でも、

涙は消えていなかった。

何十年も。

身体の奥で。

ずっと待っていた。

「もう大丈夫だよ」

「もう流していいよ」

その言葉を。

だから今、
止まらなかったんだと思う。

スタバで流れた涙も。

歩きながら溢れた涙も。

誰にも分からなかった、
あの苦しさも。

あれは、

弱さの涙じゃなかった。

生き延びるために、

止めるしかなかった涙だった。

そして今。

私はようやく、

その涙を流せる場所まで、
生きてきた。

あの日、
飲み込んだ涙を。

何十年もの時間をかけて、

私は迎えに行っていたのかもしれない。

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