映画「ナイチンゲール」は、19世紀初頭のオーストラリア・タスマニアを舞台にした、過酷で心を抉るような物語です。主人公のクレアさんは、アイルランド出身の若い女性で、過去に盗みを働いたためにイギリス軍の囚人となっています。彼女は刑期を終えても、冷酷なイギリス軍の将校ホーキンスによって理不尽に支配され、自由を奪われたままの生活を強いられていました。クレアさんは夫と幼い子どもと共に平穏な生活を望んでいましたが、ホーキンスの嫉妬と暴力により、その希望は無残に打ち砕かれてしまいます。

物語の始まりで、ホーキンスがクレアさんをレイプし、その後、夫エイデンさんと赤ん坊を残虐に殺害するシーンが描かれます。この出来事は、クレアさんの心に深い傷を残すと同時に、彼女に復讐を決意させます。ホーキンスが昇進のために町を出発すると知ったクレアさんは、彼を追い、正義を貫こうと決意します。

クレアさんの旅は、決して一人でのものではありませんでした。彼女はアボリジニの青年ビリーをガイドとして雇います。ビリーは自身もまた、植民地支配の犠牲者であり、家族を失った過去を持っています。当初、二人は互いに対して不信感や偏見を抱いていましたが、共に旅を続ける中で、少しずつ心を通わせていきます。

クレアさんとビリーがホーキンスを追う道のりは、単なる復讐の旅を超え、人種差別や植民地時代の残虐行為を深く描いたものとなっています。物語のクライマックスで、クレアさんはついにホーキンスと対峙しますが、彼に引き金を引く前に、彼女は自らの心の痛みと向き合うことを余儀なくされます。ビリーもまた、彼自身の復讐の旅を終え、過去の傷を癒やそうとします。

映画の終わりでは、クレアさんとビリーが共に海を見つめるシーンが描かれます。復讐は果たされたものの、失ったものの大きさや、人間の持つ本当の力とは何かを深く問いかけられる結末です。映画全体を通じて、暴力や差別の問題に鋭く切り込みながらも、人間の絆や共感の重要性を強く感じさせる作品となっています。