浅井のかつての恋人で、ジヨンが思いを寄せていた相手であるさゆり。
彼女が遭難して亡くなったことがきっかけで始まった慰霊登山を、二人は続けています。
互いに忘れがたい相手を悼むために始めた恒例行事が、ジヨンの告白によって壮絶な一夜に変わるとは、二人は予想していなかったでしょう。
物語は、吹雪による遭難と大怪我のため、「もう先はないだろうから伝えておく」というジヨンが、「さゆりを殺してしまった」と告白したことから展開していきます。
ただ、なぜ浅井はジヨンを助けたのかが疑問です。
それは、ジヨンが長い間誰にも言えずに背負っていた罪を、親友である自分に打ち明けたこと、そして「誰にも言えなかったこと」という苦しみを抱えていたことへの同情から、彼を許し共に救助を待つ気持ちがあったのではないでしょうか。
しかし、もし私が浅井の立場だったら、かつての恋人であろうと人を殺すのは許されない行為であり、そのまま凍えて野垂れ死ぬように放置しただろう。
そうすることで私も罪に問われるかもしれないが、それは自業自得だと思う。
後で罪に問われても、雪山遭難という状況なら何とでも言い逃れができるだろうと考える。
一体私とジヨンのどちらが非道か分からないが、私ならそうするのに、なぜ浅井は助けたのだろうか。
この浅はかな優しさが後に大きな災いを引き起こすことになるのは、少し後の話です。
物語は次第に不穏な雰囲気を醸し出していきます。
足を怪我して動けないジヨンを介抱しようと、浅井は薪で火をおこしたり、雪を溶かしてお湯を用意したり、玉ねぎを使ってスープを作ります。
ジヨンのために尽くす一方で、なぜか彼は浅井のために行動しようとしません。
携帯電話を貸してほしいと頼んでも「持っていない」と言いますが、実際は持っていました。
玉ねぎを切るための包丁が見当たらないと言いますが、実際は包丁を隠し持っていました。
ジヨンは浅井にとって都合の悪い行動を取り続けます。
この状況から、浅井は一つの疑念を抱くようになりました。
ジヨンが知らない方がよかったことを口にしたことで、彼は自分自身が知ってしまったことを彼に殺害されるつもりなのではないかと心配するようになります。
浅井は疑心暗鬼になり、ジヨンの不穏な行動に怯える一方で、ジヨンは浅井が「罪の告白」を聞いた後の彼の過剰な優しさに疑問を抱き始めます。
なぜ彼は「かつての恋人」が親友に殺されたことを知っていながら、「聞かなかったことにする」と言えるのか、と。
せめて自首を勧めるとか、もっと詳しい事情を聞くとか、ジヨンを責めるような態度をとっても不思議ではありません。
何なら、浅井がジヨンを処分してもおかしくはありません。
しかし、彼は自分を助けたのです。
ジヨンもまた疑心暗鬼、いや自暴自棄とも言えるような表情を見せ始めます。
逆にジヨンは浅井に「お前も告白しろ」と迫っていきます。
この閉じ込められた空間で、互いが安全を確保するためなら、その手段も悪くない。
どちらも悪いのだから手を出すことはないだろう、そんな感覚でしょうか。
それに対し浅井は「何も告白することはない」と一貫して拒絶します。
徐々に狂気を帯びていくジヨンは、とうとう浅井を殺そうと行動に移していくのです。
ここからは、狭い空間での追いかけっこや攻撃、防御が展開されます。
避難部屋にはトイレ、物置、キッチン、そして2階の荷物置き場の4つの部屋があり、1階の物置と2階の置き場には梯子が設置されています。
この空間を駆使して、どんな攻防戦が展開されるかが、本作の見どころです。
実際、ジヨンは足を怪我しているので動きが鈍くなっていますが、包丁を持っています。
一方、浅井は怪我もなく身軽に動けますが、高山病を発症する可能性があり、視界が霞んでしまうという弱点があります。
このように設定されたウィークポイントにより、狭い空間での攻防戦が必死に繰り広げられます。
そのため、部屋に隠れても視界が霞んで見えるため、ジヨンがすぐ近くに潜んでいても気づかないのです。
ジヨンは物音さえ立てなければいつでも浅井を仕留めることができます。
しかし、浅井の視界がいつも霞んでいるわけではないため、やや有利な状況にあります。
それでも、少しずつダメージを与えていき、ジヨンが武器を持っていることもあり、浅井も気を抜けばやられてしまう可能性があるという構図になっています。