夫はまだ生きてくれると信じて
毎日付き添いをしていました。
このままずっと入院生活が続くような気がしていました。
たぶんこれは私の願望だったのでしょう。

そんな時、看護師さんから
「ご主人が病院を出られる時に
着る服を用意しておいてくださいね」
と言われました。

病院を出る時=亡くなった時

泣きながら家に戻り
夫の服を選びました。
いつも仕事で着ていた
スーツに決めましたが
「これを着る時は
亡くなった時なんだ」
と思うとたまらなくなり、
スーツをを抱きしめて
声をあげて泣きました。
辛かったです。

緩和ケア病棟に入院して24日目。

夫は息を引きとりました。
肺がんの告知から4年5ヶ月。
58歳でした。

もう二度と目を開くことはない。
もう二度と声を聞くことはできない。
もう二度と手を握り返してはくれない。
まったく動かなくなった
まだ温かい夫の腕を
一生懸命さすりました。
「よく頑張ったね」
「ありがとう」
「ありがとう」
「ありがとう」

入院中は痛みで
いつも苦しそうな顔をしていた夫でしたが
亡くなった時は
笑みを浮かべているような
穏やかな顔をしていました。
それが、
せめてもの救いでした。
あの穏やかな顔は
ずっと頭に残っています。

看護師さんが丁寧に
エンゼルケアをしてくださいました。
きちんとスーツを着せてもらった夫が
今にも起き上がって
「仕事に行ってくるよ」
と言いそうに見えて
また涙が溢れました。