会社にブレーキをかける
トヨタの生産ラインでは、作業者がラインの流れを止めるためのヒモがあります。5m間隔でラインの左右に設置され、誰でも引っ張ることができます。どういう時にこのヒモを引くか?というと、 1.作業が遅れ、止めなければ作業が完了しない。 2.作業途中で、問題を発見した。 3.作業をしたが、違和感があった。1は、作業に不慣れな作業者、特に新人はよくあることで、タクトタイム内に一人分の作業が完了しない場合です。2は、設備の故障、部品不良を発見したなど、些細な問題を発見した時。 または、危険を感じたなどです。3は、作業したものの、いつもと何かが違うと感じたなど。どうして、すぐ止めないとならないのか?2と3は、問題や違和感を放置してつくり続けると、不良品をつくっている可能性もあるということです。 不良品をつくること自体がムダを生んでいるので、すぐ対処したほうが良いのです。安全面からも、すぐ止めなければなりません。と、ここまではヒモの存在理由なのですが、今回の本題はここからです。「本当に引っ張るの?」という疑問が生じると思います。ラインを止める=生産が減る、ということを、作業者の立場で本当にやるのか?ということです。会社としては、生産を最大限にするように日々努力をしているので、生産を減らす行為というのはタブーであるはずです。しかも、その判断を作業者に任せる。生産を減少させるような判断は、通常 社長か役員クラスが決断するものです。 それを、新入社員も決断して実行させる手段があるのです。先に述べたように、止める大義はあるのですが、それを実現している企業は少ないのです。ちょっと拡大解釈をすると、コンプライアンスを自浄しているとも取れます。では、「本当に引っ張っているのか?」、「形だけじゃないのか?」と疑念を持たれている方もおられると思いますが、引っ張っています。日頃から、「引っ張ることを躊躇するな。」と教育をしております。ただ、100%の作業者が理解しているか?というと、そうではありません。 「なんで、止めたんだー。」と言う班長もいます。 ただ、その班長はこっぴどく叱られます。一人でも、止めることを咎める作業者がいると、このシステムは成り立ちません。 だから、徹底的にやります。ヒモを引っ張るのは、勇気がいります。大義は理解していても、勇気が必要です。ちょっとした違和感でも引っ張ります。 コネクタを挿入した際、「カチッ」といつもは音がするのに、今の作業はしなかった。。。などでも引っ張ります。 「もしかして、完全に入っていないのかも?」と感じたら引っ張ります。 自分では、いつも通りの力で挿入しているのです。 それでも音が違った。 「まあ、入っているだろう。」と思いがちですが、それでも引っ張れと指示しているのです。ヒモが引かれると、近くの班長やリーダーが飛んで来ます。コネクタの音の件を短く伝え、その部分を確認してもらいます。多くの場合が、取り越し苦労です。 問題は、ありません。その時、苦労した、面倒だった、ムダだったと思ってはなりません。すべてが、「良かった。」なのです。問題があっても、無くても、「良かった。」であり、「良く止めた。」なのです。それを、心の底から理解していなければ、引っ張る勇気も出ないし、「良く止めた。」と褒めることもできないのです。作業者全員の心の底に、その大義を理解させる必要があるのです。ヒモを引いてラインを止めるという行為は、「良い車しかつくらない。」という決意があるからです。全員がその決意を持っているということは、並大抵のことではありません。そのモチベーションが、脈々と続いているのです。風土であり、文化です。トヨタの工場のラインには、「良い品、良い考え」というスローガンの幕が張られています。良い品というのは、良い考えの元でしか出来ないということです。きれい事を言っているようですが、きれい事をきれいに守っているのです。もちろん、トヨタだけではないでしょう。日本のモノづくりの強さは、こういったところにもあるのです。作業者自らが考え動く。 考動です。