NHKスペシャル「インサイド・トヨタ」開発現場
NHKスペシャルで、標記の番組を観た。
元・中の人として、番組の感想を書いてみます。
まず思ったのが「よくここまで、内部を見せたな」という驚きである。
普段、トヨタの社員でさえ容易に入ることの出来ない商品企画部(通称Z)内にカメラが入っていたし、またデザイン棟の屋上での商品企画会議も映していた。
例えるならば、内視鏡カメラで胃の内部を映した感じだ。
そしてもう一つ、社員が本音で語っている。 これも、よくここまで曝け出したなと思った。
トヨタスポーツの斉藤チーフエンジニア(開発責任者)が、「ポルシェ を研究してバラバラにして調べても、どうやったらあのような走りになるのか、未だに解らない」というコメントもあった。
これは、本音である。 私もエンジニアの端くれだが、シャシー系は本当に解らない。
エンジンは数値で比較できる。しかし、車の一体感や操縦安定性は数式だけでは説明できない世界がある。
ポルシェ の方程式で造り込んだものと、トヨタの方程式が違うのである。 どこが、どう違うのか? 永年やっていても解らないのは、本音である。 単に、価格の違いではない。 それは逆で、そういう方程式で造り込んだから価格が高いとも言えるのである。
こういった本音は、外部には話さないものである。
 
この番組には、メインメッセージがあった。(個人の感想だが)
なぜ、NHKはトヨタを特集しようと思ったのか?
なぜ、トヨタはこれほどまで本音を曝け出したのか?
大袈裟かもしれないが、これは日本の製造業へのメッセージであり、ひいては日本全体へのメッセージがあった。
日本のGDPは現在4位だが、2026年にはインドに抜かれて5位になる。
こんなことではいけない。
だが、順位は下がり続けているものの、中身は微増しているのである。
その微増を支えているのが製造業なのである。 日本の製造業は、まだまだ世界のトップクラスにあるのである。
そういった中、トヨタでは非常に危機感を持っている。
これは、今に始まったことではない。
その危機感は、番組内で強く伝わって来た。
トヨタが、こんなに危機感を持って、全員が緊張感を持って本気で考えている。
そういった場面を、NHKは上手く映像で伝えていた。
 
私がこの番組から受け取ったメッセージは、突き詰めれば次の二つだった。
⚫︎もっと危機感を持て
⚫︎もっと、考えろ
の二つだと個人的に考える。
 
トヨタは、日本を背負っていると感じている。
末端の従業員まで、それは浸透してきる。
これは、奢っているのではない。 トヨタが転けたら、日本は転ける。
トヨタに対して様々な意見はあるだろう。しかし、日本経済への影響力を考えれば、その責任の重さは誰も否定できないと思う。
だから、日頃から危機感を持ち、とにかく考えている。
だからトヨタは、自社だけではなく、日本全体の競争力に危機感を持っているように私には映った。
 
番組内でチラッと映った「よい品 よい考え」のスローガンがあった。
まさに、これがメインメッセージである。
数字を追わず、良い品をつくるために、もっと考えろである。
 
【なぜ企業は、変われないのか?】
私はトヨタを辞めて独立してから多くの会社をみて来ましたが、トヨタほど危機感も無いし、考えてもいない。 上から目線と言われるかもしれないが、そんなことを言っている場合ではない。
本当に、日本は危機感を持たないと駄目になる。
だから私も、早期定年退職をして教えて回ろうと思った。
もっと、危機感を持って考えないと駄目だ。
 
私は、行った先で質問をされるが、その殆どが甘えた質問をしている。
これは例えで話をするが、
8月31日の夏休み最終日に、「宿題が全く出来ていないのだけど、トヨタはどうして宿題を終わらせられるのか?」
というような質問をされる。
こういう例えだと、誰でも答える事が出来るだろう。
そういう質問をしてくるのである。
ここで、「まず計画を立てて、その計画を守るからだよ」と教えたところで、その会社は宿題を終わらせることは出来ないだろう。 計画も立てないし、守らない。
私のセミナーで、色々とツールを教えて欲しいとリクエストがあるが、教えても出来ないのである。
当たり前である。 ハードウェアを与えても、ソフトウェアがインストールされていないからである。
 
番組の中で紹介されていたのは、特別なノウハウではなかった。
危機感を持ち、考え続けるという、ごく当たり前の姿勢だった。
しかし、その当たり前を、本気でやり続けることこそが一番難しい。
私は、この番組を観て改めてそう感じた。
 
NHKの番組を見逃した方は、NHK ONEで見逃し配信として観られるらしいので、是非観て欲しい。
それぞれの人が、肌で感じて欲しい。