2020年よりトヨタの人事評価に加わった“人間力”について考察してみます。
事あるたびに“人間力”という言葉が職場で飛び交っておりました。
社長の豊田章男さんがトヨタイムズやCMで、「すべては人間力」と言われ出してからというものの、社内では「どうやって人間力を上げていくか？」という設問に答えを出すために、職場で話し合いが持たれていました。
そもそも、この人間力という言葉ですが、2003年に政府が “人間力戦略研究会” なるものを立上げ、日本の若者に夢と目標を抱かせ、意欲を高めようという趣旨で始めたものです。
詳細は、以下のリンクをご参照下さい。
https://www5.cao.go.jp/keizai1/2004/ningenryoku/0410houkoku.pdf
トヨタは、その研究会の座員として人事から室長が参加しており、トヨタの人事評価の一つにも、それを採用したものです。
人間力とは何か？と言われると、あまり聞き慣れない言葉のため、色々な事を言われる方が居られる事でしょう。
研究会では、「社会を構成し運営 するとともに、自立した一人の人間として力強く生きていくための総合的な力」と定義付けしております。
具体的に構成要素に着目すると、
① 「基礎学力（主に学校教育を通じて修得される基礎的な知的能力）」、「専門的な知 識・ノウハウ」を持ち、自らそれを継続的に高めていく力。また、それらの上に応用力として構築される「論理的思考力」、「創造力」などの知的能力的要素
② 「コミュニケーションスキル」、「リーダーシップ」、「公共心」、「規範意識」や「他者を尊重し切磋琢磨しながらお互いを高め合う力」などの社会・対人関係力的要素
③ これらの要素を十分に発揮するための「意欲」、「忍耐力」や「自分らしい生き方や成功を追求する力」などの自己制御的要素 などがあげられ、これらを総合的にバランス良く高めることが、人間力を高めること。
と、書かれております。（原文そのまま）
いかがでしょうか？ そうだとも思うし、それだけかなぁとも思います。
こういう曖昧な言葉の定義付けというものは、大変難しいと思います。
ということで、言い切ってしまうしか無いのでしょう。
さて、その曖昧なものを人事評価に加えるということなのです。
うまく行くのでしょうか？
私が現役（２年前）の頃にも、評価の方法について随分と話し合いが持たれました。
ただ、私がいつも疑問に思い、話し合いの中で訴えて来た事があります。
それは、「評価はするけど、育成をしていない。」です。
PDCAの中で、Checkはするが、Doについて何もしていない事を問題提起していました。
人財育成とは、評価することがメインではなく、育成というDoをしなければ意味が無いと思うのです。
では、今回の人間力について、どうやって育成するのでしょうか？
政府内閣府の研究会が定義した内容を伝えて、「そのようになるように努力しなさい」と言うのでしょう。 要は、個人任せになりかねない。
トヨタの場合、評価は上長が行い、4段階で評価をします。
◎、〇、△、×です。 簡単でしょ？
まずは、各自で自己評価をします。 その次に、上長が評価をします。
自分の評価と上長の評価が、並べて記載されます。 当然、食い違いも生じます。
勿論、上司の評価が最終評価です。
悪い言い方をすると、上司の匙加減です。
“人間力”という何とも曖昧な項目が人事評価に加わった事で、部下も上司もやり難さを感じている事でしょう。
一般的な言葉で言うと、人間味とかではないでしょうか？
単に、人の良い人は沢山居ます。 でも、その中で仕事が出来る人は、一握りです。
人間味のある人が仕事が出来るわけではないのです。
だから、求めているのは、人間味があって仕事の出来る人なのです。
それが、人間力ではないか？と思うのです。
ですから、必ず仕事の結果を出さなければ、この評価に◎は付かないのです。
もう、こうなって来ると、エセ人間力、なんちゃって人間力、その場限りの人間力なる役者が増えるのではないかと危惧をしているのです。
だから、その“人間力”を人事評価に入れる意味があるのか？少し疑問に感じるところもあるのです。
私が出会った上司で、人間力が備わった人が何人居たか？と聞かれても、一人か二人であったと答えるでしょう。
大概にして、自分の出世しか考えていないような人間味の無い上司しか思い浮かばないのです。
人間力があって、後世に残るような仕事を成し遂げる人は、ほんの数人しか居ないように思うのです。
そういう力を、従業員全員に求めているのです。
果たして、うまく行くのか、数年で項目から削除されるのか、今後注視していきたいと思います。
皆さんは、どのように思われますか？