レーナマリア「あなたは価値のある者です」
『レーナ・マリア物語』より
レーナ・マリア、彼女こそ、この年一九八七年パリで行われたヨーロッパ障害者水泳選手権大会で、四つの金メダルを独占して話題をさらった少女なのです。
これは一年前の世界障害者選手権大会で、五十メートル背泳と自由形で金メダル、百メートル自由形では銅メダルを獲得したのに続く快挙でした。
原因は、定かではありませんが、彼女には生まれた時から両腕がなく、左足は右足の半分の長さという障害を負っていました。障害をもちながらも、人魚のように体をうねらせてゴールインしたようすや、あごと両肩を巧みに使って水から上がり、プールサイドで見せたさわやかでチャーミングな笑顔は、とても印象的でした。
地元の新聞は、「スポーツ選手のレーナ・マリア」と書きたて、取材攻勢はいく日も続きました。彼らの最大の関心事は、生まれながらに負った大きな障害にもかかわらず、いつもほほえんでいる彼女の明るさと、前向きな生き方でした。
「レーナ・マリアさん。あなたの喜びはどこからくるのですか。」
取材のたびに聞かれる質問に、彼女もまたいつもと同じようにこたえます。
「わたしの両親は、わたしを障害者レーナ・マリアとして育てず、ひとりの娘レーナ・マリアとして育ててくれました。そして、いつも『あなたは価値のある者です。わたしたちは、あなたをとても愛している。』といって育ててくれました。
けれども、それ以上に神様がわたしを愛してくださっているということや、わたしには神様の特別のご計画がおありになるから、他の人とちがう形に造られたのだ、ということをいつも話してくれました。
ですからわたしは、この特別の体を神様のために使っていただきたいと思っています。そのようにお祈りしていると、神様がどんな時でも、わたしといっしょにいてくださって、わたしを助けてくださり、わたしの親友でいてくださることがわかって、いつも喜んでいることができるのです。」
別の記者は、たずねます。
「あなたは、自分の体の障害のことを悲しいと思ったことはありませんか。」
「少し不便だと思ったことはあります。でも悲しんだり、落ちこんだりしたことは一度もありません。神様は、なにか目的があって、 わたしをこういう形に造られたのだと思います。ですから、その目的がなんであったのか、これから知らされるのが楽しみです。」
レーナ・マリアの笑顔は、ふしぎにいつもまわりにいる人びとを、明るく豊かな気侍ちにさせました。
『レーナ・マリア物語』より
遠藤 町子 作
出版社: 金の星社 (1993/10)