おぼえてるひといないかもしれないけど全国放送で私は見た。
おばあちゃんがマンゴーを描いてるドキュメンタリー。
ずいぶんなお年で身内の女性が何かとお世話してる。
で、毎日マンゴーを描くんだけど。
描いてる時間よりマンゴー見てる時間のほうが長い。
一、二筆加筆しただけで、その日の画業はおしまいって日も。
バカバカしくてつきあえんと思いつつチャンネル変えられんかった。
日本画の絵の具ってチューブから出せば済むってもんじゃない。
付き添いの方の準備には手間と時間がかかる。
だけど肝心の筆は進まず、そのうちマンゴーが腐ってくる。
新しいマンゴーに置き換えられるが、それもまた腐敗。
そんなこと繰り返すうちにマンゴーの季節が終わる。
ほかの産地のマンゴーならあるけど、それじゃ本人がダメなんだって。
で、マンゴーの絵は次の季節までお休み。
翌日からべつのテーマに向かう。
そんなおばあちゃんから私は目が離せなくなったよ。
取材もずいぶん気長なものだった。
こんなんで完成するんか、死ぬほうがはやいんやないかと、
やきもきして見てたけど、ついにマンゴーの絵は完成した。
マンゴーを見、自分の絵を見、離れたところに絵を置いてもらったり、
ふたたび近くで絵を見たり、それは編集されて数分になってたが、
どれだけ長い時間が経過したか、わからない様子。
「ん。完成やな」
静かなつぶやきが画家の口から洩れた瞬間、画室の空気がほころんだ。
マンゴーの絵に落款が押される瞬間。
わけわからんけどこういうの好きだと思った。
そして今もまだ。