【第9回】本
「ヘタな人生論より良寛の生きざま」(河出書房新社)
(著/松本市壽)

エビスゆうの ふくな『キヅキ』-良寛さん


盗人に取り残されし窓の月

私の大好きな良寛さんの有名な俳句。
この句が、パリの地下鉄で人気投票の1位になったことを
覚えている人もいるのではないでしょうか。

良寛の生きた時代は、不況と不作の厳しい時代で
百姓一揆ががしばしば起きたようです。
そんな折、質素(貧しい)暮らしをしていた良寛さんの
二合庵にも泥棒が!本書では、

「月の照るある夜、良寛の寝ている枕元を探してはみたが、
もっていくものがない。
金は敷布団の中にでも隠していると見たのか、
それを剥ぎにかかる。
先ほどから寝たふりをしたまま良寛は、
わざと寝返りを打ち、敷布団をもたせてやった。
騒ぎたてれば刺されたかもしれない。
泥棒が去ったあと、嘆息しながら俳句をひねる」


こんな状況の中、なぜ!こんな俳句が出てくるのか!
著者はその理由として、

「良寛にしてみれば、やせ我慢でも何でもない。
月夜の晩でも風流を解する余裕すらない、哀れな泥棒を嘆いたのだ」


と書いています。

損得だけでは量れない心の有り様が、
この短い言葉の中に詰まっていて、なんて凄いんだろう!
と、思わずにはいられません。
クールなパリっ子たちでさえも、魅了したこの俳句。

月を眺めながら、本当の意味で『キヅキ』となるまで、
何度も詠んでみます。