今、この国に何が足りないのか?
結論から言おう。この国には「ソーシャルリリーフ」が足りない。「ソーシャルリリーフ」が必要である。
 
「リリーフ(relief)」とは「安心」のこと。「もし、あなたがコロナに感染しても大丈夫。あなたは社会からつまみ出されない。だから、安心してください」という「環境」を日本中に作る必要がある。それこそが、ウィズコロナ、新生活様式の肝になる。ここが欠落したまま経済を回そうとするから、どことなく大丈夫かなという気持ちのまま、不安感だけが募るのである。
「社会的な安心を感じる=日常生活を取り戻す」。Jリーグはリーグ戦再開前、2週間に1度全選手のPCR検査を行うことを決め、再開にこぎつけた。プロ野球も遅れて同じようなことを始めた。選手にとって日常生活とは何か?それは試合を行い、ファンを魅了することである。その日常生活を取り戻すために徹底した検査を行い、安心感を持ってリーグを再開させたわけである。ときに感染者は出たものの、それは当然のことであって、それよりも大事なことは誰が感染していて、感染していないのかはっきりさせることで安心が生まれるというプロセスがそこにあったことではないだろうか。感染していてもその選手は2週間療養すれば、戻って来られる。これが選手やファンの安心感につながる。機構と選手がしっかりリーグ内ソーシャル・リーリーフを築いていたからこそ日常生活が取り戻せた。つまり、このJリーグやプロ野球こそ、日本の目指すべき縮図であると思うのである。
歌舞伎町がコロナのエピセンター(感染の集積地)となりつつあったとき、行政は徹底的な検査を行わなかった。最初のうちは200店舗を越えるホストクラブのうち、3店舗だけが対象、その後も感染者が出た店舗だけを対象に30店舗ほどが検査対象。これで積極的な検査をしていると言えるだろうか。結局、結果として、感染箇所は夜の街だけでなく職場や会食、施設へと広がりを見せ、新規感染者の年代の中心は徐々に上がってきている。そして、出てくる数字が何を根拠にしているのか判然としないので何とも言えない部分はあるが、陽性と診断された若者の中に連絡がつかない人がいるという報道がある。これは大問題だ。SNSでは保健所から電話があっても嘘をついてもよいとか、10日間無症状であれば治っているから連絡を無視してよいといった書き込みがあるそうだ。デマに近いこの情報の拡散もひどい話だと思う。だが、このことから見えてくるのは、2週間も隔離されたら仕事ができなくなる、生活できなくなると思っている若者の心理状況だ。このことは先に書いたホストクラブで検査に協力しない店舗の数が多いこととも共通していて、ホストクラブには陽性者を出してしまえば、営業が苦しくなるという思いがあるのだろう。
ただ、もしここでJリーグやプロ野球のようなソーシャルリリーフの環境が既に社会の中にあれば、歌舞伎町、そしてその後の新宿エリアの話は変わったはずだ。つまり、ホストクラブの多くが検査を受けただろう。また、一番感染を広げる可能性のある無症状の若者も保健所からの連絡を受けていただろう。
「検査体制を拡充したいが、目詰まりがあってなかなか進まなかった」と首相が言っていたのはいつのことだっただろう?その後、非常にゆっくりとしたペースで検査数は増えているようであるが、あまりにも遅い。もっと検査数を増やすこと、また検査方法を見直すこと、それが必要なことである。そして、検査数を増やすだけでなく、検査を受けて陽性と診断されても大丈夫、きちんと国や自治体が保障するという、ソーシャルリリーフを広げていくことが必要である。
ソーシャルリリーフを広げていくのは、行政の役割である。ソーシャルリリーフを広げるためには、感染症法にある入院の規則など、法の運用もこれまでとは違った対応が求められることもあるだろう。刻一刻と変化する新型コロナウイルスの状況に迅速に対応するためにはやはり国会を閉じてはいけない。仲のよいお友達閣僚の閣議決定で決めてはいるようでは事態の好転は望めない。
もう少し気軽にPCR検査が受けられるようにする。また、その結果が悪くてもその人自身が悪いわけではないという環境を早急に築かないと、この国の感染者は減らないと思う。ソーシャルディスタンスということばは市民権を得た。次はソーシャルリリーフということばを根付かせてほしい。